DAC1794−Vは実現するか?(後編その2)2007.6.4
FETのペアリングは必要か?
さて、基板は量産(?)中ですが、アンプに使うFETのペアリングはどのくらい重要か調べてみましょう。
同じロットのFETをつかっているのと、VRをつけていたのであまりペアリングは気にしていなかったのですが、
VRを動かしてもゼロ調整ができなかった場合もあるので、案外ペアリングはシビアに効いてくるのかもしれません。
まずはIdsを測定してみよう!
測定するのに必要なのは、電源と電流計(テスター)です。電源は電池2本や006P(9V)でも
良いでしょう。その辺に転がっているもので十分です。
Idsを測定するために必要なもの。
測定は簡単で、FETのG(ゲート)とS(ソース)をショートさせて電源につなぐだけ。
これで、流れる電流を測定します。今回は2SK117(GR)を7個ほど測定しました。
測定時の様子。ミノムシクリップのショートに注意。 測定時の回路。
意外とばらつくな〜
7個測定しましたが、意外とばらつきます。最小値が3.62mAで最大値が5.69mAでした。
おなじロットなので、もう少し揃うかと思いましたが、甘かった様です。測定したFETにはIdsを記入したシールを貼り付けておきます。
測定様の回路を組み立てる!
測定のためにIV+差動合成基板をつかって、アンプを1回路だけ組み立てます。
入力のFETについては差し替えられるようにICソケットを流用しました。ここで使ったトランジスタはとくにペアリングしていません。
出力段のトランジスタは2SC3421(O)と2SA1358(Y)とランクが違うものですが、気にする必要はありません(ホント?)。
測定様の回路を組み立てたところ。
回路図はこれ。R5,6は180ΩとしてVRは100Ωを使用。赤丸がFETのところ。
試してみましょう!
Idsの異なるFETを差し替えて、出力オフセットの発生状況をみてみましょう。
今回は7個のFETをつかいましたが、Idsのばらつきが大きいので、テストには好都合です。
と、前向きに考えます(笑)。
FETを差し替えて、出力電圧を観測します。
2つのFETの組み合わせを変えて測定した結果が下記の表になります。
なお、表の語句の定義も合わせて示します。
Ids誤差 | 2つのFETのIdsのばらつきを示します。 誤差=Idsの差/小さい方のIds |
VR中央時のオフセット | 実際にはVRを最小、最大にしたときのオフセット値からVRを中央にした値を計算しています。 絶対値で表示しています(mV)。 |
調整範囲 | VRを最小、最大にしたときに変化する電圧範囲 |
表 測定結果
FET1のIds (mA) |
FET2のIds (mA) |
Ids誤差 | VR中央時の オフセット (絶対値)(mV) |
調整範囲 (mV) |
3.62 | 3.69 | 2% | 8 | 227 |
3.62 | 4.04 | 12% | 33 | 228 |
3.62 | 4.46 | 23% | 50 | 225 |
3.62 | 5.23 | 44% | 113 | 226 |
3.62 | 5.57 | 54% | 119 | 227 |
3.62 | 5.69 | 57% | 131 | 226 |
5.57 | 5.69 | 2% | 7 | 226 |
4.46 | 5.69 | 28% | 78 | 227 |
4.04 | 4.46 | 10% | 20 | 226 |
表だけではわかりにくいのでグラフにしてみましょう。
まず、VRによるオフセットの調整範囲は左図に示しますがFETの組み合わせにはほとんど影響なく、おおよそ225mVになりました。
ちょうど正負で112mVの調整範囲が得られることになります。
またIds誤差とオフセットの関係を右図に示します。Idsの誤差とオフセットは比例するようです。
VRでの調整範囲が片側で112mVですから、Idsの誤差により112mV以上のオフセットが発生してしまえば、
VRによりゼロ調整ができないことがわかります。このときのIdsの誤差は46%になります。
意外とIdsがばらついても、上記の回路定数ならゼロ調整が出来そうです。
でも、これはあくまで限界値ですから、もう少し余裕をみてIdsのペアリング精度は
普通なら20%以内
出来れば10%以内、
拘わるなら5%以内
を目指せばいいと思われます。反対に5%以下にペアリングすれば10mV程度にオフセットが収まるので、
VRは省略してもよいかもしれません。VRがない方が、実装時の信頼性が増すでしょう。
VRの調整範囲 Ids誤差とオフセットの関係
ということで結論は
個人的には10%以内を目指したペアリングをしたものを本チャンのDAC1794-3では使ってみたいと思います。
ということは、今のうちにペアリングしておくかな?
ペアリングしてみよう! 2007.6.8
まずは20個の2SK117のIdsを計ってみました。そうするとこんな感じのばらつきです。
20個測定したときのばらつき
最小値が2.98mAで最大値が6.13mA。平均値が4.6mAで分散が1.06mAあります。
かなりばらつきますね。グラフをみて思いましたが、5mAくらいを境に上下で別れそうです。
これがロットのばらつきというものかな?
まあ、これからペアリングしてみましょう。
まずは、Idsの値を順番に並べます。そうすると同じく、こんなグラフができます。
Idsを測定値順に並べる(20個分)
どうやら4.8mAと3.5mAのところに不連続箇所があります。この部分を省いて、
Idsの値の順番にペアリングしていけば、5%以内のものができそうです。
ちょうど20個測定して、9ペアできましたから、良しとしましょう。
ただし、Idsの絶対値も合わしたいとなると、もっと沢山の測定が必要になりそうです。
100個くらい測定すれば・・・でも、結構面倒です。
修正版の基板到着! 2007.6.12
ようやく到着しました。さて、せっせとつくっていきましょう。まずは電源基板からです。
やっぱり結構サイズが大きい!
電源基板もサイズが大きいのですが、部品種類や点数ももさほど多くないので、時間はあまりかかりません。
が、注意する要所もあります。放熱板を取り付けるときにトランジスタの絶縁シートを使わないので、
放熱板が部品面の配線パターンの上にくるときは要注意です。レジストがありますが、剥けて放熱板と接触する
可能性もあるので、絶縁テープを貼っておきました。
念のため絶縁テープを貼っておきます。
放熱板すべてとりつけました。
電解コンデンサの取り付けは、極性の間違いがないように取り付けますが、まっすぐに立った状態で
取り付くようにすることも見かけ上大切です。大きなコンデンサはリードを片側だけ取り付けて、ちゃんと基板に
密着しているかどうかを確認してから、もう1方ぽうリードを半田付けします。
コンデンサの頭がそろうように注意。
さて、電源基板が完成です。まずはお出かけ用の写真をパチリ。
再度、部品の取り付け間違いがないか確認しておきます。MUTE回路用のオペアンプはLM358という
安価なものですが、なぜかICソケットが入っています。これは、単にオペアンプが手元になかったからです。
4580Dでも動くかな?
一応(?)完成の電源基板。
ん?おかしいな〜。
あ、シルク間違い発見。2箇所間違えているとこを発見。部品を取り付けなおさなくっちゃ。
修正後。
さてどこが違っていたでしょう?間違い探しです(笑)。
7260 | 改訂基板が上がってきたのですね | ma - 2007/06/13 09:01 - |
>さてどこが違っていたでしょう?間違い探しです(笑)。 写真手前の電解コンデンサの極性ですね。(笑) 楽しく行きましょう。 |
ぐあ!見つけるの早いですね。その通りです。
マニュアルにはこんな感じで修正個所を明示予定です。
電源基板に、通電するのは週末にということで次はメインのDAC基板に着手しましょう。
こちらがメインのDAC基板。
まずはセロテープで表面実装ICのCS8416とPCM1794Aを基板に固定します。
このあとフラクスを塗って半田付け。
SOPくらいは簡単! SSOPはちょっと神経をつかいます。
慎重に半田付けしていきますが、やっぱりブリッジができてしまいます。すぐに判るものもあれば、
肉眼ではわかりにくいものがあるので、ルーペで嫌になるほど確認します。勿論、まずいところは修正します。
これはわかり易いブリッジです。 こういうのは肉眼ではわかりにくい。
ブリッジを修正して、半田付けや怪しいところは再度半田を盛っておきます。
ふう、結構神経をつかいます。
表面実装ICが半田付け終わったら、チップコンデンサもついでに取り付けておきましょう。
今日はここまでにしておきましょう。楽しみは、また明日。
今日はここまで!
(2007.6.14
さて、今日はDAIとDAC回りの部品を取り付けましょう。
DAC回りはOSコンでかためました。ちょうど68uF/6.3Vのものが50個ほど残っていたので
一気につかって見ようと思います。本当はもっと小さい容量でもいいのですが大サービスです。
そもそも電解コンデンサ自体の誤差が数10%はありますから、あまり細かいことは気にしません。
DACの周辺とDAI周辺はOSコンでかためました。
大きめのコンデンサを載せることの出来る場所には、もっと容量の大きいものを使いたかったのですが、
基板の高さ制限に引っかかりそうなので、容量よりは質を重視させました。150uF/16VのSANYOの低ESR
のものをつかいました。
普通の電コンは質のよいものを使用!
今日はここまでかな。次は一気にアナログ部を組み立てますが、これはちょっと気合いがいります。
今からやれば、途中で挫折してしまいそうです。
残りを一気に仕上げましょう。 2007.6.16
昨晩は飲み過ぎて、帰ってから10時にはバタンキュー。
そのおかげで、今日は朝早く目覚めたので早朝から半田ゴテ作業再開です。
もう一気に部品を取り付けます。でも手先が・・・・ちょっと二日酔いかな・・・・・
すべての部品が実装完了
TO-92トランジスタは高さを抑えるために直角に足を曲げて取り付けました。
しかし、今日はいい天気です。絶好の半田ゴテ日より?なわけないか。
折角なので娘と一緒にお出かけしましょう!
通電はまた、後ほど。
作業再開!
基板はほぼ完成したので、動作確認に入りましょう。
まずは電源基板から確認します。トランスを接続して、電源ON!
おお煙が〜てなことはないです。
電圧を測って問題が無いか確認します。
アナログ正 | アナログ負 | DAC | ディジタル | |
狙い(V) | 15V | -15V | 5V | 3.3V/5V |
実測(V) | 無負荷時 15.19V 15.19V |
無負荷時 -15.13V -15.13V |
4.96V 4.97V |
3.306V 3.279V 5.03V |
まったく問題ないですね。
電源基板の確認の様子
次はメインのDAC基板を重ねて、電源線を配線して本体動作の確認です。
これって、結構緊張します
本体基板を接続!電源投入ってこわーい!
無事波形出力がでました。
たまには矩形波でチェックです。ディジタルフィルターが入っているので、こんな形の波形になります。
波形がでで少しホッ!
やっぱり無事では済まないようです。
DAC1794−Vは実現するか?(後編)で「1.電源をOFFしたあとにすぐにONすると上手く立ち上がらない。」
という項目での問題が再現しました。前回はPCM1794Aの損傷かと思っていた(思いこみ?)のですが、
実際はIVアンプの問題だったようです。
色々と測定して、問題となるときの現象は整理できました
「IVアンプの入力に電圧がかかった状態で、電源が投入されるとアンプが動作不良になる場合がある」
というものです。
対策の1つは、アンプの電源OFF時に十分時間が経ってからONにするとかがありますが、作例にも大容量の
コンデンサがつかわれる例が多々あるので、運用面での対策はむずかしそうです。
あるいはコンデンサのチャージを無理矢理抜いてやるなどの対策があり、電源基板にはリレー回路を組み入れるようにも
してありますが、対策は完全ではありません。
困ったときのR.さん頼み!
思わずHELPしてしまいました(汗)。
その後、何回かメールをさせていただいて、
入力のJFETが順バイアスで、ダイオード動作してしまうのが原因?JFETの飽和?
FET入力に飽和防止のダイオードは? FET入力に電源間でクランプダイオード?
などなど、検討しましたが、意外と早く対応策を提案いただきました。
R.さん どうも電源の立ち上がりのタイミングで定電流回路が起動しない動作になるようです。 JFETの飽和は関係ないようです。 原因が分かれば対策は簡単で、添付ファイルのようにR7とQ5のコレクターをアースに落とせば問題なく立ち上がるようです。 回路の規模が大きくて、電源回路の何種類もあると組み合わせで思わぬトラブルが出ますね。 |
シミュレーションで検証してみましょう。
下に対策前と対策後の回路図を出力波形を示しています。回路図の違いは僅かなところです(間違い探し?)。
波形は電源が立ち上がるまえに、一定の信号をIVアンプに入力しておいて、電源が立ち上がった場合の様子を示しています。
IVアンプなので、入力FETの電圧はゼロになるはずですが、対策前では電源投入と同時に正の出力に振れています。
対して、対策後は正常動作をしています。
この修正なら、とても簡単です。
対策前 | 入力に電圧がかかっている状態で電源投入されると動作が誤動作 (入力電圧がゼロにならなり) |
|
対策後 | 電源投入によりアンプとして正常動作(入力電圧がゼロになる) |
シミュレーションで良好な結果が得られたので、まずはIVアンプ単独だけ組んだ基板で動作チェックして、次は実機(DAC)に適用です。
修正は簡単。0
アンプの基板の中でGNDは意外と半田付けできるパッドがないのですが、今回は意外と近い所に
GND接続するところがありました。それはFETのGateです。ここに基板の裏側で接続してやればOKです。
修正個所は下の写真の1カ所をジャンパーします。1カ所といっても、アンプ回路は4つあるので、
全部で4カ所のジャンパーは必要です。
修正個所はここ(計4カ所)
これで、動作はOKです。急な電源On/OFF時にも問題なく、チャージを抜くためのリレー回路は無くても、大丈夫なことが確認できました。
これで、ようやくケースに収められそうです。
ケースに収めましょう。
ケース自体はすでに、加工が済んでいるのであとは配線だけです。
加工が済んでいるので、あとは配線だけ!
今回は基板を2階建てにしてケースに収めますが、電源基板とDAC基板はきるだけ離したいので、
電源基板は極力、低いスペーサにて取り付けます。今回は適当なスペーサが手元になかったので
M4ナット(厚さ約3mm)をスペーサ代わりにつかいます。3mmなので、下手をすると基板の裏側の突起が
ケースに触れる可能性もあるので、その危険性のあるところは絶縁テープを2重にはっておきました。
ケースの内側は基板と底板までの距離は5mmに増えるので、とくになにもしなくても大丈夫です
(そこまで基板がたわむことはないはず)。
絶縁のために、隙間の狭いところには絶縁テープを2枚重ねで貼付
まずは電源基板から取り付けます。電源基板は1枚物なので、配線は少なくて済みます。
電源基板をとりつけた様子。
クリアランスが狭い(これでも、半田面の突起のケースの接触はありません)。
最後にDAC基板を取り付け!
DAC基板を電源基板の上に重ねて、配線作業を開始します。
配線といっても上下の電源線と信号線だけですから、あまり時間はかかりません。
いつもは光入力とかをつけますが、今回は同軸2系統だけなので、配線数も少な目です。
完成!
NOSDAC3と同様に結構スッキリと収まりました。
完成しました!
DAC基板の部品と上蓋とのクリアランスも十分です。スペーサは2本をつないで30+8=38mmとしています。
<補足>
実用機とするためにもMUTE用のリレーも搭載しました。左右に分けて2個つかいたかったのですが、パーツボックスに
1つしかありませんでした(泣)。1つのリレー(2回路)で左右両方のMUTEをかけます。
でも、リレーって結構電流が流れるので、2つも並列にすればレギュレータが熱くなりそうです。
リレーを2つ並列にする場合には、簡単な放熱板をとりつけておいたほうがいいかもしれません。
MUTE用のリレー回路。じつはこの位置にリレーを取り付けたのは
間違いでした。ケースの”さん”の部分に当たりそうでした(紙一枚の隙間で収まりました。
ほとんど運がよかっただけ)。
リレー回路の配線の様子。写真写りが悪いのでよくわからないですね。
紅白のツイスト線は他方のチャンネルのMUTE用です。
MUTE用リレー回路の配線の様子(わからない・・・)
あ、DAC1704-4Dも直しておかなくっちゃ!
そういえば同じIV回路でDAC1704-4Dも改造しています。
こちらも、IV回路部分を修正しておきましょう。
→DAC1704-4D改造
両者で聞き比べ!!
さて、DAC1794-3が完成したので試聴大会!と行きたいところですが、しばらく通電してエージングしましょう。
あ、基板予約の整理もしなくっちゃ・・・・・
DAC1704-4DとDAC1794-3。DAC1704-4Dの方がトランスが1個多い分重たい。
(つづく)