ちょっと箸休め(ディジタルアイソレータその2)2006.5.6

DAC63-4Sやお気楽アンプ2のアートワークも一応完成しGW明けに発注する基板の面付けも終了しました。
面付けとは大きな元基板に各種の基板を割り付けて配置する作業です。できるだけ無駄なスペースがでいないようにパズルのように
組み合わせていくのですが、どうしても小さいスペースが余ってしまいます(最適解をみつけるようなことをすれば気が遠くなります・・・・)。
いつもはその余ったスペースを利用してユニバーサル基板などを作っていました。意外とこうしてつくった小さい基板はちょっとした実験のときに便利です。
今回はBBSでも話題のあったディジタルアイソレータの「その2」として実験的に空芯トランスをつくってみました。

DACやアンプなどの基板サイズが大きくて配線が多い基板のアートワークはそのチェックで気をつかいますが、
このくらいの基板のアートワークだと、ちょうど箸休にもってこいです。動作するかどうかはわかりませんが、
動作しなくても「まあいいっか」て感じで済ませられます。

なぜ空芯トランスなの?

パルストランスのコアに使うのはご存じの通りフェライトです。フェライトは透磁率も高く、導電率が極めて低く渦電流損失も低い優れた材料ですが、
磁性材特有のヒステリシスを持ちます。このヒステリシスがディジタル信号にどういった影響を与えるかはわかりませんが、非線形な要素はできるだけ
省いておいた方がよいような気がします。オーディオ特有のプラシーボのたぐいかもしれません。
しかしメーカなら、それらしく「フェライトのヒステリシスに起因したディジタル信号の歪みを排除することで高音質なディジタルアイソレータを実現!」
などと言うかもしれませんが・・・・・・


空芯トランスはどうして作るの?

これは簡単です。プリント基板にグルグルとパターンを描けばできますね。
コイルの巻き数がどれだけ必要か計算せずに適当に作ってみましたが、有る程度巻き数がないと、
相互インダクタンスが大きくならない(トランスにならない)ので、スペースをできるだけつかってコイルを巻きます。
両面基板ですから、当然両面ともコイルを描きます。本当は4層基板あたりをつかえば2倍のコイルを巻くことができますが、
さすがにそこまでやるとお金がかかってしまいます。

コイルピッチはプリント基板の製造におけるデザインルールできまります。私がいつもつかうメーカでは線幅・線間隔は0.125mmですが
最小値でつくるとパターン切れ等が怖いので、すこし余裕をもって0.15mmとしました。

ではさっそく描いてみましょう。

こんな感じでできあがりました。もしトランスの結合係数が足りなくて上手くうごかなかったときには、普通のパルストランスも取り付けたられるように
端子もつけました。 コイルの巻き数は31ターンになっています(少ないかな〜?)ロジックICはSOPパッケージをつかいました。これはDIPだとサイズが大きくて入らないためです。

 こんな感じでできた空芯トランスのディジタルアイソレータ

本当に動くの? 2006.5.7
この基板を描く前にテストをしているので、多分大丈夫かなと思っています。
ASRCのパルストランスを取り外して、30Tの空芯トランスを取り付けた時の写真です。
 
空芯トランス(30T)                       75Ω負荷時信号(0.5V/div)

問題と思っているところは写真のように1つの半径でグルグル巻いたコイルと、同心円上に広がるように描いたコイルでは
インダクタンスがかなり違います。さらに磁束の発生量が違いうでエネルギー伝達が減るはずです。
このあたりの影響がどこまででてくるかは試作基板で確認予定です。
手巻きコイルで出力が1Vppくらいありますから、効率が落ちても規格である0.5Vppくらいは確保できるとは思うのですが・・・・
このあたりが動くかどうか自信の無いところではあります・・・・・(汗)

やばっ!2006.5.7
コイルのデザインルールを0.15mmに設定して描いていましたが、プリント基板の製造仕様を再確認してみると、
0.15mmの場合は銅箔厚さが18umになるようです(標準は35um)。
アンプとか電源基板も一緒につくるので、銅箔の厚さを薄くするわけにはいけません。気づいてよかったです。
さらに基板メーカのオプションに銅箔70umのオプションも復活したようです。
コストが少し上がりますが、これは嬉しいです。とくにLM3886BTL基板も一緒に作るので70umは是非とも選択したいところです。
となるとアイソレータのコイルのデザインルールは変更せざるをえません。6mil(0.15mm)で設計していたものを7mil(0.178mm)に
変更しました。出来るだけ巻き数を増やすべくコイル面積を(少しだけ)広げて見ましたが、31→29ターンに減ってしまいました。
まあこのくらいなら許容できるかな(汗)

最終のアートワークはここです。

組み立て開始2005.5.25

右側にグルグルあるのが空芯コイルです。

この基板にとりつける部品はとても少ないので平日の夜でも作業できそうです。
では、おもむろに部品をとりつけていきましょう。全部で抵抗は3種10本、コンデンサは4種8個、IC3個、ダイオード2本です。
20分くらいでできあがってしまいます。半田付けはいつも横着して部品面からつけています。
半田面で半田をしようとするとリード線が邪魔ですし、それに裏返したときに部品が抜けてしまうことがあります。
大半の部品を差し込んで、一気に部品面から半田付けをするというのが結構効率的です。
でも、いやがる人も結構多いようです。というのも部品に熱ストレスがかかりやすいですからね。

この基板ではICは3個だけすが、主要なものはロジックICになります。
今回は手持ちの関係から74HCU04と74AC04をつかいました。
74VHCシリーズなどが手に入ればいいのかもしれませんが、速度的にはAHCが良いのかな?
回路図、部品表は簡単なので手書きのフリーハンドで済ませています→ここ
ちなみに部品の定数はまだ暫定値です。とくにR4〜R9は少し調整が必要なとところです。

え、みたけど絵も字もきたいないから判らないって?まあ、そこはご勘弁を。
手書きだと味があっていいでしょう(笑)。


部品はこれだけ。少ない!


20分程度で完成!


Cextは基板の裏にとりつけました。

動作確認!
さて、まずは動くかどうかみてみましょう。
電源は実験用の電源を接続します。出力電圧は8Vくらいに設定すればいいでしょう。
入力信号は最初は秋月DDS発振器を出力としてつかいます。
まずは出力波形は見てみましょう。波形を見るために出力に75Ωの負荷抵抗を入れています。
やはり少しエッジが立ったような形になっていますが、このくらいなら大丈夫なのでしょうか。

実験の様子

    
         1MHz入力時                             2MHz入力時

  
        3MHz入力時  (あ、縦軸メモるの忘れた!)      4MHz入力時


波形の改善トライ!
まずR4〜R9の抵抗値を33Ωに変更してみましょう。波形はほとんど矩形波になってきましたね。
 
        1MHz入力時(1V/div)    抵抗値33Ω        2MHz入力時(1V/div)

  
        3MHz入力時 (1V/div)    抵抗値33Ω    4MHz入力時(1V/div) 


抵抗を低くして改善するならばR4〜R9はジャンパーしてみましょう。
抵抗値を取り外すのも面倒なので、基板の裏でジャンパーしました。

抵抗をすべてジャンパー

波形は若干ですから、より改善する方向に向かいました。74AC04の発熱もあまりないようですから、
この空芯のアイソレータの場合はジャンパーでよいでしょう。その方が抵抗6本分のコストが抑えられます。
さらにパルストランスのフェライトコアも不要なので、お気楽アイソレータのできあがりです。
もし、フェライトコア有りのパルストランスを取り付ける場合は抵抗値があったほうがいいかもしれませんが、
これはみなさんで何がよいか試してみてください。

 
       1MHz入力時(1V/div)    R4〜R9=0Ω     2MHz入力時(1V/div)

 
        3MHz入力時 (1V/div)  R4〜R9=0Ω     4MHz入力時(1V/div) 

DACに接続!
入力をASRCに接続し、出力はDAC63-4Dにつないで音が鳴るか確認しましたが、問題ありません。
96kHzまでの動作は確認できました。192kHzについては対応するDAIが無いので不明です。
さて、音質はどうでしょうね。

雑感
 ちょっと遊びで空芯タイプのディジタルアイソレータを試作してみましたが、こんなものでも
ちゃんと動くようです。フェライトのヒステリシス影響うんぬんなど難しいことは考えず、
フェライトコアやコイル巻きも不要ですから、それこそお気楽アイソレータとして使えそうです。

(完)

番外編)普通のアイソレータの巻き