やっぱり名前はお気楽アンプ2?

LM3886をつかったアンプはその手軽さにもかかわらず、出力も大きく安定性にも優れたものです。
そのため店員さんが「大学の学生さんらが実験用に買っていく」ということを言ってました。
過出力や熱対策もあるので、無茶な使い方をしても壊れないのがいいでしょう。たぶんモータアンプなんかに使われているのかな?
もちろんオーディオ用としても十分に実用になるICです(もとともオーディオ用だって!)。

さて、そのLM3886をBTLにしてはという話題が掲示板に上がり、ちょっと茶目っ気を出して検討してみたいと思います。
出来るだけ簡単に作れることを考えると電源込みが必須です。お気楽PAをつくりましたが、ケーシングの時に何が時間がかかるかといえば、
ケースの穴開け(こんなのは1時間もあればできる)ではなく、そのあとの配線です。これ結構時間かかります。
というけで、基板を組み立てたあとは、できるだけ簡単に仕上げられるように電源込みのオールインワンを目指します。
お気楽に製作できるということで、やはり名前はお気楽アンプ2でしょう。

さて、R.さんから頂いた(いつもすみません)回路をもとにオペアンプ用の電源を含めたのが下記になります。
オペアンプ用の電源はトランジスタで簡単に分圧してやろうと思っていましたが、
「今回同じ電源電圧でもLM3886の出力は4倍になりますから、電源電圧±15Vでも8オームで60W、4オームで80W近くまで出る計算になります。
実際には、この70%くらだと思いますが、放熱を考慮してもOPアンプとLM3886の電源電圧は同じで良いと思いますよ。
むしろ、LM3886に行く大電流がOPアンプに流れないようにOPアンプ電源にリップルフィルター回路とかを入れると良いと思います。」

というアドバイスをいただきました。確かに低電圧でも高出力が得られるのがBTLの特徴です。
でも、整流後電圧が15Vを越えるとOPアンプに良くないし・・・・
ということで分圧もできるしリップルフィルタにも出来るようにと兼用の回路にしてみました。


LM3886のモデルが無いので適当なオペアンプで代替しています。


こんな感じです。基本的には推奨電圧は12〜15Vくらいでしょうか。トランスはAC9〜11Vくらいが適しそうです。
もちろん20V以上でも大丈夫でしょうか(目指せ100W!ってICが壊れるよ・・・・)。

アートワーク!
なんとか部品配置が決まりました。LM3886は横一列に並べて放熱板に取り付け易くしないといけなかった点と、
またLM3886の正面に電コンを配置すると、ネジ締めができなくなるので、このあたりを注意して配置します。
またLM3886の取り付けピッチは8mmの倍数になるようにしています。
手持ちの放熱板のピッチが単純にそうだったからなんですが、他の放熱板も一度調べて見なくては・・・・・
ただし、この配置をすると、Pin4(負電圧)の給電パターンを太くしにくいのでちょっと工夫が必要です。

基板レイアウト。幅が195mmと結構な大きさになります。


これがほぼ最終形でしょうか。後はベタを塗るだけです。
変更点は抵抗の大きさを400milから500milにサイズアップしました。そのため部品配置が多少変化しています。
あとはLM3886のバイアス調整抵抗(パターンのみ)が入れられるように考慮しています。


こんな感じかな?見直すと結構間違いあるな〜。

オペアンプはDIP-SOICの共用パターンにもしてみましょう。
ただしSOICとしては幅が狭いので足を少し大幅に内側にまげる(できれば完全に内側に曲げてICの腹側に納める)などの工夫が必要です。



さて回路図を清書(?)します。PCBは回路図と合わせて最終チェックします。


ベタも塗りつつあります。
信号線のGNDと電源ラインのGNDを分離するためのスリッタをいれました。LM3886のSP出力パターンが一部縦断しているので
GNDの抵抗が少し上がりそうでなので、電流の回避経路を設けるために少し部品配置も変更しました。



べた塗り完了!ふう、つかれた。


詳しいパターンを見たい方はこちら。 
一応これが最終版の予定です。 全体  TOPレイヤーのみ シルクのみ

製作開始!2006.5.21

さて基板が到着しました。銅箔厚さが70umありますのでどっしりとした重さを感じます。
実際に35umの場合と70umではレジストとの境界の盛り上がり方が違うので厚さの違いがすぐにわかります。


LM3886BTL基板。70umの銅箔厚さなので重量感があります。

悩みどころ
基板をくみ立てるまえに部品を選定しないといけませんが、
その中でもトランスをどうするかはなやみどころです。BTL構成ですから、電源電圧はさほど高くなくても十分な出力が得られます。
ということで今回はトランスにはRSコンポーネントの12Vのものをつかってみました。
容量は120VAにするか60VAにするか悩みましたが、実用的には60VAもあれば十分なので小さい方にしました。
ただ値段はあまり違わないので120VAでもよかったかもしれません。
さてRSのトロイダルトランスは115V仕様なので国内でつかうと出力は85%になります。
12Vだと10.4Vになります。整流後の出力は1.4倍(無負荷時)になりますので14.56Vになるでしょう。
さらに整流ダイオードの電圧降下を差し引くと14Vくらいになると思います。
この電圧にすればオペアンプの電源としても分圧する必要はありません。
Q1,Q2はリップルフィルターとして機能させればよいでしょう。

平滑コンデンサは?
電圧がきまったところでコンデンサの耐圧は16Vを選択します。
使用する電圧以上の耐圧をつかうことはあたりまえですが、あまり耐圧をあげすぎると容量があげられません。
容量としては16V10000uFのMUSEが手元にあるのですが、残念なことに3本しかなかったので、
すこし違いますが16V6800uFのものを4本つかいました。これでも片側13600uFですから結構な容量です。

今回つかった平滑用コンデンサ

基板の製作の前に・・・・
必要な部品はすべて部品箱から調達しました。ただ、いきなり組み立てるわけにはいきません。
LM3886を基板にとりつけるためには放熱板とケースをきめないとだめなんです。
というのもLM3886は千鳥配置のピンですから、部品面から半田付けは難しいのです。
また放熱板に取り付けた状態では半田面から半田できません。まずは基板と放熱板とLM3886の位置関係を確定させる必要があります。
ということでケースの加工からやりましょう。

LM3886って変なピン配置!


ケース加工!
ケースの選択も悩みどころです。いつものケースはタカチの奥行き37cmのものですが、これだと余分な空間が空きすぎます。
しかし異なるケースを使うとバランスや見栄えが悪くなるし・・・悩ましいところです。
ということでやっぱりいつものケースをつかうことにします。
空いたスペースにはお気楽つながりということでお気軽DAC2のDAC63S-miniを入れてDAC+アンプにしてしまいましょう!


ケース加工完了!放熱板の下には通気用の孔をあけておきます。


フロントおよびリアパネルはレタリングしておきます。

#しかし、こんな調子で作っていくと機器がどんどん増えていきます。
#収納するラックの大きさは変わりませんから1つ増やすと1つへらさないといけないトコロテンの現実がまっています。

まずは仮組!
まずはLM3886を基板と放熱板に仮組して、この段階でLM3886を半田付けします。
手前のピンを半田付けしたあと、放熱板から取り外して半田面から残りのピンを半田付けします。
これでLM3886が基板にしっかりと固定されます。
なお、フルモールドでないLM3886をつかう場合は絶縁シートが必要ですが、シート込みで仮組みしないと、シートの厚さ分で位置がずれますから注意が必要です。
もっとも、基板の取り付け孔の精度から考えると十分にガタツキでシートの厚さくらいは吸収できるでしょう。


まずは仮組した状態。

基板完成!

LM3886の取り付けが終われば、あとは必要な部品を差し込むだけです。じつのところこのアンプの基板の製作部品数はさほど多くはありません。
さらに同じ定数の抵抗値などが多いので意外と早くくみたてられることでしょう。実装にあたっては背の低いもの、軽いものから順番にとりつけていきます。

をっと!ミス発見
ところで基板をみてすぐにミスがあることを発見しました。CAD上では何回もチェックしたつもりでしたが、一部見逃しました。
オペアンプ用のパスコンの電解コンデンサであるC28,C30の片側がベタアースにつながっていません。
この程度のミスならば修正は簡単です。近くのレジストを少し剥いでおいて、写真の用に取り付ければOKです。
 
 ミスの部分。修正用にレジストを剥ぎ剥ぎ!         コンデンサの片側のリードは直接ベタ面に半田付け。

ミスの部分を修正して、各種部品を取り付け完成です。


完成!お出かけようの写真をパチリ!


ケーシングだ!
完成した基板をケースに収めるときはLM3886に放熱用のグリスを塗るのを忘れないようにしましょう。
固まりで塗って置けば、あとはネジでしめこんだときに勝手に広がってくれます。

シリコングリスをチョビット塗り塗り!

必要な部品をケースに固定します。完成まであとわ残り20%くらいでしょう。

必要な部品をケースに固定


配線完了。デバッグ完了まではケーブルの固定は行いません。


なかなかかっこよくしあがりました。

動作確認!

さて配線にミスがないかを確認して、お待ちかねの動作確認の時間です。どちらかといえばLM3886BTLの製作は簡単な部類に入りますが、
舐めてかかるととんでもないポカをしますので、慎重にいきましょう。

電源電圧は14.8V
はやる心を抑えて電源投入!すぐさま電源電圧を測ります。無負荷の状態ですが出力は14.8Vのようです。
ほぼ計算通りですが、少し高めかな?でもオペアンプのことを考えるとぴったしの電圧値です。

入力をつないで・・・ンガー発振している!!!!!
このアンプはDACを内蔵しているので入力は同軸一本で事足ります。とりあえずPCの出力をつないで正弦波をいれてみましょう。
で、出力をオシロで観察してみると見事に発振しています(汗汗汗)

みごとな発振状態です。

発振はしていますが、ボリュームをまわすと出力レベルが変わるので基板の配線自体が問題なさそうです。
困った事態のときにでも、いつでもポジティブシンキングです(やせ我慢?)
発振元を探っていくと、OPアンプの出力のところで発振波形がみえました。
OPアンプにはOPA2604をつかっていますがFET入力が悪いのかと思いバイポーラ入力の4580Dをつかってみました。
すると、OPアンプの出力端子での発振はありませんが、LM3886の出力は発振したままです。
どうやら発振の原因はLM3886そのもののようです。LM3886は反転回路でつかっているので、
抵抗を介して直接OPアンプの出力につながりますから、入力抵抗の高いOPA2604ではオペアンプの出力段でも発振波形が見えたようです。

原因は・・・解決!

LM3886をつかったのは今回が初めてではないのですが発振したことは初めてです。
で、いままでと何が違うかと考えれば、発振防止用に入力+−の間に発振止めのコンデンサ100pを入れたのですがこれが仇となったようです。
このコンデンサを取り外すと発振はなくなりました。あまり変わったことはしないほうがよいということなんでしょう。

発振の原因となった発振止めのつもりで入れたコンデンサ


発振がなくなりきれいな波形になりました。


最後の仕上げ

動作も確認できたのです、配線を整理してケースのふたをしましょう。視聴はまた後ほど。


配線を結束バンドをつかって整理


細かいところも丁寧にまとめましょう。

試聴!

お気楽アンプ2(LM3886/BTL)が完成してから、だいぶ日が経ちました。
この間アンプはエージングを兼ねてずっとサブ用としてのONKYOのD202A(16cm2Wayスピーカ)に繋げてならしていました。
今回の装置はDACとアンプを組み合わせているので、CDPから同軸を1つなぐだけで、スピーカをならすことができてとても便利です。
本当はメインにつなぎたいところですが、3WAYマルチのシステムになっていますのアンプ1台だけ取り替えるわけにも行きません。
そのためアンプの試聴はもっぱら、D202Aをつかっています。このスピーカもかなり出来としてはいいものです。

さて、今回の試聴に使ったCDはこれ。ちょっと懐かしくなって今井美樹のナンバーをもってきました。


試聴の結果ですが、いままでつないでたお気楽でないアンプ(電流帰還アンプ)との比較として表現してみましょう。
まず、電流帰還アンプはワイドバンドで極めてシャープな音づくりです。
そのため、フラットな1枚の金属板が面を向けて高速でこちらに飛んでくるような音の印象があります。

それに対してLM3886BTLを最初に聞いたときの印象は、音に強い立体感を感じました。モコモコっという感じではないのだけれど、
音の節々のエッジが立っていて、音が手の中に納められそうな感じです。
電流帰還アンプを「1枚の金属板が面を向けて高速でこちらに飛んでくる」と表現しましたが、LM3886BTLは「大きなサイコロがこちらに飛んでくる」といった感じです。
#どちらも当たると痛そうです(笑)。

言い方を変えると
美樹ちゃんがスタジオで歌っているのが電流帰還アンプ。とくかく正確ですべての音を含めようとする意図みたいなものを感じます。
そしてステージで歌っているのがLM3886BTLアンプ。躍動感みたいな音の動きを感じます。
どちらがいい?って言われたら、難しいな〜。
どちらかを選ぶよりも、素直に音の違いが楽しめた自作オーディオに感謝です。

後日談・・・・2006.7.3

お気楽PA2でOPA2604をつかった場合、発振するという投稿があり私も確認してみましたが、やはり発振していました。
振幅自体は0.5Vpp程度だったのでスピーカにも悪影響はなかったようですが、どうやらLM3886の発振対策を4580Dを挿したままやっていて、
発振が止まったと思って、安心しきってOPA2604に差し替えた模様です。
このとき、再度オシロで発振を確認していればこういった問題は防げたのでしょう。
思いこみではなく、確認という作業の重要性を痛感しました。

(完)