お気楽でないPA?(電流帰還型パワーアンプ)
回路構成
この回路は以前にR.さんから高性能を狙うアンプとして提案していただいたものなのですが、
お気楽PAの試作と同時期に試作してみました。
回路は見覚えがあるかもしれませんが、ヘッドホンアンプ(HPA、HPA−SLIM)と同様の電流帰還型と
なっています。本来は電流制限回路を入れるべきなのですが、少し横着してしまったということと、
保護回路付きの定電圧回路と組み合わせる予定だったので、保護回路はとくに入れていません。
回路図。小さくて見にくいのですが構成は判るでしょう。
基板製作〜ケーシング
部品点数はお気楽PAに比べると多くなっています。とくに小電力トランジスタや抵抗を多くつかいます。
その点では「お気楽」とはいえないアンプ基板なのですが、案外コスト面では財布に優しいかもしれません。
というのもお気楽PAに使うオペアンプはFET入力の物が必須でOPA604あたりだとdigikey通販で@280円くらいします。
ひょっとして店頭で買えばもっと高いかもしれません。それに比べれば2SC1815/A1015あたりのトランジスタを使えば
@5円くらいですから、20個つかったとしても100円にしかなりません。部品点数は多いが意外と安く上がるのが特徴かもしれません。
(あ、VRやLEDがあるからとんとんくらいかな?)
完成した基板。面積はお気楽PAの約2倍あります。
実はこの基板は完全に試作を決め込んで作ったので、かなりチェックが甘くて一杯バグがありました。
一番面倒だったのが、平滑コンデンサの片側をベタアースに誤って接続したところです。切り離すパターンが6カ所もあります。
一応サーマルパターンにしておいて良かったです。これがベタ直結だったら、試作をあきらめていたところです。
その他にもカット必要なところがありました。
一番面倒なバグ修正個所。 カットするだけなら簡単
動作確認は簡単には済ませているので、いきなりケーシングにかかります。
実はお気楽PAを作るときには、この電流PAに載せ替えることを想定して基板配置を決めていました。
そのためお気楽PAの回りに余分なスペーサをつけていたのです。
換装前のお気楽PA。アンプ基板の回りのスペーサは電流PA用にもの。
定電圧電源の出力はお気楽PAと同30Vです。ただ、お気楽PAをつくったときは低い値の抵抗が0.22Ωしか手持ちになかったので
これを電流制限回路につかっていたため、最大電流は2.7A程度に抑えられてしまいます。もう少し電流がながせられるように
秋葉近くに出張に行ったときに買ってきて抵抗値を0.1Ωに変更しました。これで最大で6Aくらいはながせられることになります。
しかし6Aも流れる音量だと100%近所迷惑ですね。
交換前の抵抗(0.22Ω) 交換後の抵抗(0.1Ω)
用いたパワートランジスタはお気楽PAと同じくIRFP140/9140のMOSFETです。
ケースの底面に直接つけて放熱してやります。
パワトラと取り付けの様子。
さて、あとは配線をし直せば完成です。お気楽PAとほぼ端子配置が同じなので配線自体のやり直しはさほど面倒ではありません。
電流帰還型パワーアンプに載せ替え完了
ついでなので、ヘッドホン出力用にリレーをとりつけました。これは電流投入時のポップノイズを取るためです。
スピーカ出力をスイッチで切り替えてもよかったのですが、配線が長くなりそうなのでリレーをいれました。
ヘッドホン出力には保護抵抗(200Ω)を入れています。なくてもよいのですが、ボリュームが低い位置(8時頃)で
音量が大きくなるようだったので追加しました。
ヘッドホンの切り替えリレー(右側) ヘッドホン出力回り
さて、これで完成です。
試聴!
試聴はいつものお気に入りのJAZZで行いますが、最初の印象は「音のヌケが良い」という印象です。
先入観だとは思いますが、ディスクリオペアンプA6と同じような音の印象をうけます。
さらにいつもつかっているHPAと同じような感じでもあります。回路構成が同じだからでしょうかね・・・・・・
特性もみておきましょう。
まず最大出力電圧をみておきましょう。電源電圧は30Vですが、FETのON電圧が4Vありますから、
駆動するトランジスタの電圧降下も含めると実際は電源電圧−5Vくらいになると思われます。
実測結果も最大振幅25V(50Vp-p)という結果でした。それを越えると頭がクリップしてしまいます。
まあ、家では25Vも出すことはまず100%ありません(私の環境では音楽信号の先鋭的なピークですら4Vを越えることは無かったです)。
最大電圧出力時(上:出力 10V/div) 最大電圧出力を越えるとこんな感じ
純抵抗負荷(6.8Ω)
つぎに6.8Ωのセメント抵抗を負荷にしてみました。出力電圧は振幅10Vになるように設定しています。
周波数1k、10kHzでの矩形波を入れていますが、周波数特性は良さそうです。もっともシミュレーションでは
1MHzくらいまで伸びていますから、当然といえば当然です。
周波数1kHz(上:出力 10V/div) 周波数10kHz(上:出力 10V/div)
コンデンサ負荷(0.022uF)
つぎはコンデンサのみをつけて出力をみてみましょう。すでにスピーカの位相補償回路(10Ω//4uHと
10Ω+0.047uF)が入っていますが、リンギング等はみられないようです。安定した出力特性です。
周波数1kHz(上:出力 10V/div) 周波数10kHz(上:出力 10V/div)
最後に周波数特性を計ってみよう。
発振器をDDSに代えて測定します。スピーカの位相補償回路込みで、6.8Ωの負荷抵抗をつないだ状態とします。
いわゆるネット値になると思います。大体-3dB地点は400kHz弱です。アンプ単体でのシミュレーションは1MHzくらいでしたから
周波数帯域が狭くなった要因はスピーカの位相補償回路によるものでしょう。
しかし、これだけの特性が出れば十分でしょう。
100kHzまではフラット。-3dBポイントは400kHz弱(上図の300kHzの値は間違い)です。
雑感
部品点数の多い電流帰還型アンプですが、その周波数特性も優れていて、かつコンデンサ負荷にも強いようです。
案外初めて作る場合にもトラブルが少ないアンプなのかもしれません。
部品点数が多いといってもさほどコストがかさむものも少ないようですから、ひょっとしてお気楽PAよりさらにお気楽なアンプなのかもしれません。
お気楽でないPAのパワーアップ!2006.5.7
お気楽でないPA(仮称)を音響部品でパワーアップです。取り替えた部品はエミッタ抵抗(MPC
0.47Ω)とカップリングコンデンサ(ERO 3.3uF)です。
といっても貰い物です・・・・・・ありがとうございました。
部品を交換したこともありバイアス電流とオフセットを再調整しました。バイアス電流は増やして50→100mAにしています。
発熱で部屋が暑くなるようなら、また元に戻そうかと思いますが、まだ季節はいいですからその必要は当分先になるでしょう。
で、音はというと先ほどまで使っていたカップリングコンデンサ(MUSEの無極性)でも、全然文句はなかったのですが
部品を変えることで左右の分離性が向上したようです。おそらく分解能が上がったためでしょうか、音の見通しがよくなりました。
音響部品でパワーアップ
ついでに波形も観測し直し。
その前に発振器もパワーアップ
いつも使っている発振器は学生のとき(1987年)に作ったICL8038を使った物ですが、
回路がまずかったためか矩形波がかなり鈍っています。そこで、今回秋月のMAX038をつかったものに
中身を交換しました。このIC自体はMAX20MHzまで発振できるのですが、いかんせん途中にボリュームを
挟み込んでしまったりすると途端に出力周波数の帯域が悪くなってしまいます。しかしボリュームをつけなければ
不便ですし、またオーディオ帯域では全然支障ありませんから便利さを優先させました。
改造前の発振器の中味。20年間ご苦労様でした。 発振器はICL8038(セラミックパッケージです)
改造後の発振器。機能拡張のためのユニバーサル基板をとりあえず設置。
では測定してみましょう。
負荷には6.8Ωのセメント抵抗をつなげています。
周波数1kHz(上:出力 5V/div) 周波数10kHz(上:出力 5V/div)
周波数100kHz(上:出力 5V/div)
さすがに100kHzともなると波形が鈍りますが、10kHzの矩形波でもかなり忠実に再生します。
周波数特性の良い点は再確認できました。ひょっとして同じ電流帰還アンプのHPAはどうだろうか?
測定してみたくなりました。
番外編(本チャン用HPAの出力と波形)
写真館のPAGE13に掲載している小生作の本チャン用HPAはたまにスピーカをつなげて使うこともありますが、
ついでにどのくらいの出力が得られるかということと、波形をみてみました。
最大出力は4Wくらい。
負荷に6.8Ωの抵抗をはさんで出力をチェックすると15Vp-pまでは余裕で出力できるようです。さすがにそれを越えると
出力がクリップします。電流制限が1.2Aに設定してあるので仕方ありません。それでも正弦波をいれた場合の出力は4W
になりますから、パワーアンプとしても十分使えそうです(小生の用途です)。
周波数1kHz(上:出力 5V/div) 振幅で8Vを越えたあたりからクリップ。
出力波形は?
これもお気楽でないアンプと同様に負荷をつないで矩形波を入れて調べてみました。
よく似た感じだと思いますが、100kHzの応答を見ているとHPAの方が若干良さそうです。
これもアンプの特性なのか、それとも位相補償回路(LR)の定数違いなのかの分析が必要ですが、
こんな高周波数は聞こえるはずもないですから、まあ機会があれば追求してみましょう。
周波数1kHz(上:出力 5V/div) 周波数10kHz(上:出力 5V/div)
周波数100kHz(上:出力 5V/div)
(つづく?)