ちょっとTea Time!? シンプルなDACダイレクトアンプを考えてみる! 2022.8.14

事の発端

すこし前にこんな投稿をいただきました。



電流出力タイプのDACについてはIV抵抗を大きくすれば、結構高い電圧が得られますので、
特段の電圧増幅なしでもスピーカを駆動することができるというわけです。勿論、回路的には
色々な工夫が必要です。上記の回路を見てみると色々とわかります。

まず、DACの出力端子に発生する電圧を下げるために、PNPをつかって電圧変換をしています。



DAC(電流出力)の出力端子の電圧が高くならないようにPNPで
電圧変換を行っています。PNPのVbeは固定なので、ベースを
GND接地することでDACの出力端子のエミッタ電位を一定に
しています(でも0.8V程度は発生してしまいます)。

なお出力電流は中点12.8mAで7.8mA振幅としています。

抵抗R1の上端の電圧変化です。

DACの出力端子の電圧は最大で0.83V程度に抑えられています。

上記での回路図では、DACの出力端子の電圧は0.83Vまでに抑えられていますが、本来は0.6V以下に抑えることが必要です。
そのため、さらにPNPのベース電圧を負電圧側に引っ張る必要があります。また、引っ張りすぎないようにダイオードでクランプしています。



上記の回路からPNPのベースをGND電位から、
さらに負電圧に引っ張っています。
引っ張りすぎないようにD2でクランプもかかっています。


これでDACの出力端子の電圧は0.2V程度に抑えられていますが、
多少の変動が発生しています(ただ、これは歪の原因になるかもです)。

抵抗R1の上端の電圧変化です。

DACの出力端子の電圧は最大で0.22V程度に抑えられています。

こうすることで、電流振幅が電圧振幅に変換されています。しかし、電圧としては負側のみですので、
DACが差動出力なのを利用してBTLでスピーカを駆動しています。
ちなみにBTL駆動するためには、電源も独立した電源が2系統必要になります。というのも、
出力段がNPNのみのダーリントンなので、電流は流すことしかできません(引き込めない)。
そのため、負荷の片端の電位がかならず低位になるような電源の供給となっています。

BTLで駆動するために、独立した電源が2系統必要になっています。

この回路を設計された方は、おそらく出来るだけDACの電流出力をスピーカを駆動できるように変換されたかったと推測します。
そのため、多数の電源系統が必要になってきますが、それは目的のための手段ですので特に問われなかったのでしょう。

また音量調整もかなり工夫されています。最近のDACは内部にディジタルアッテネータがほとんど内蔵されているので、
マイコンとPCM1792やPCM1795あたりをつかえば、ビット落ちも気にならないところで音量調整ができますが、
あえてマイコン不要なPCM1794をつかってアナログ的に対応されたのも拘りといったところでしょう。

どのような回路構成にするかは別にして、とにかくDACの出力を直接パワーアンプにつなげることができれば、
システムがかなり簡潔になります。

ちょっと興味が沸いてきました。

そういえば、以前にAK4493EQを使って、DACの直後にパワーアンプを追加した基板(DAC4493PA)も作成しました。
AK4493は電圧出力なので、比較的簡単にアンプとの接続ができました。
#ちなみに、この基板は最新のAK4493Sをつかったものに変更してリリース中です。

しかし、電流出力用のDACだと少し勝手がことなります。最近の高性能なDAC(AK4499,BD34301など)は
電流出力型になってきています(復古した感じです)。さらに扱う電流もかなり大きくなっています。

今一度、電流出力型のDACについておさらいしておきましょう。

電流出力DACの電流値は大きく変ったなあ〜

初期の電流出力型DACは正負電源が必要という不便さはありましたが、
出力が±1mAなどと正負が均等にでてくるので、シンプルにOPアンプをつかったIV変換回路を
通すだけでも、そのままパワーアンプに接続できました。
しかし、最近のDACは単電源になって使いやすくはなりましたが、
電流出力は必然的にGND基準とすれば、流れ出しのみです。
そのため差動出力になっており、2個のIV変換回路を通したのち、差動アンプで
合成する必要があります。
さらに、最近はS/N上げるためか電流値がもの凄く大きくなっています。
AAK4499になると36mAppにも達しますから、OPアンプを使う場合は要注意です。
動作点をGNDに設定しようものならアンプの消費電力が過大になって燃えそうです。
でも、これがトレンドなのですよね〜。

差動アンプが必要な点については、スピーカの出力をBTLとすることで省略することができます。
あとは、いかに大電流を扱えるIV変換回路にするかということです。

DAC 分解能 データシート 電源電圧
(アナログ部)
出力電流 センター電流
センター電位
など
備考
PCM61P 18Bit PCM61P.pdf ±5V ±1mA
AD1860 18Bit AD1860.pdf ±5〜±12V ±1mA
PCM58P 18Bit PCM58P.pdf +5V,-12V ±1mA
PCM1700 18Bit PCM1700.pdf ±5V ±2mA
PCM63P 20Bit PCM63P.pdf ±5V ±2mA
PCM1702 20Bit PCM1702.pdf ±5V ±1.2mA
PCM1704 24Bit PCM1704.pdf ±5V ±1.2mA
PCM1794A 24Bit PCM1794.pdf 5V 7.8mApp -6.2mA
ES9038 32Bit 3.3V 約16mApp 中点電位VCCA/2で202Ωの出力インピーダンス
(1出力あたり)
AK4499 32Bit AK4499.pdf 5V 約36mApp 中点電位VCCA/2で110Ωの出力インピーダンス
(1出力あたり)
BD34301 32Bit bd34301.pdf 5V 6.25mApp 5.3mA
BD34352 32Bit bd34352.pdf 5V 6.25mApp 5.3mA

主な電流出力DACの出力電流をまとめてみました(あってるかな?)

IVアンプ回路を再考

ここいらで、DACに直接接続できるようなIVアンプ回路を再考です。
汎用性を考えて下記の条件が満たせるようにします。

1)AK4499などの大電流出力DACにも対応できること。
 これを満たすにはOPアンプだけでは電流容量が足りませんので、出力にバッファーを設ける必要があります。
AK4499などの単電圧動作のDACであれば、バッファーも負側電圧のみでよいのでトランジスタ1個で済みますが、
両電源で動作するAD1860の16や32パラなどのDACと接続を考えるとどうしてもプッシュプルにしておく必要があります。
汎用性を考えてプッシュプルのバッファーにしておいたほうがよさそうです(不要なら片方のみ取り付けることも出来るので)。

2)シンプルにIV変換回路で必要な電圧を発生させること。
パワーアンプ出力とするために20Vpp(振幅で10V)程度は欲しいところです。OPアンプの電源は±15V(30Vpp)ですが、
AK4499などの単電源を接続した場合、IV変換出力電圧は負側のみになるので最大でも15Vpp(振幅7.5V)です。
実際にはOPアンプの出力電圧は±15Vぎりぎりまでは使えませんし、パワーアンプの駆動トランジスタの電圧ロスを考えると
高くても8Vpp(振幅4V)が限度でしょう。これでも実用上は問題ないレベルでしょうが、
ちょっと寂しいので必然的にBTLにする必要がでてきそうです。
 電圧を上げるためにOPアンプの出力に一旦電圧増幅段を追加することも考えられますが、
そこまでするならいっそのこと電源電圧を高く設定して、全てディスクリートで考えたほうが良さそうです。

3)スピーカ出力はシングルでも使えるように
 DACもPCM1704やAD1860などのシングル出力のものもありますから、スピーカの接続もBTL前提ではなく
シングル出力できるように平均出力ゼロ電位となるようにしましょう。勿論BTL接続も可能なのですが、
BTL接続する場合でも、GNDに対してスピーカ端子に高い電圧が常にかかった状態にするのも気持ち悪いです。


例えばこんな回路

AK4499の出力を2パラ(出力振幅2Vで出力インピーダンス55Ω)とした場合で、こんな回路をSPICEしてみました。
前半がIV変換回路、後半が電力フォローになっています。電力フォロアーにはMOSFETをつかうことで、
ドライバ段を省略しています(バイポーラだとダーリントンにせざるを得ないです)。
差動合成しなくても、シングル出力で使えるようにコンデンサカップリングを配置して前段と後段でDCレベル差を調整しています。

前半部がIV変換回路。 後半部が電力フォロアーになっています。

これで約14Vpp程度の出力が得られます。BTLにすれば倍の電圧が得られます。

スピーカ出力端子の電圧です。


上下対称を意識すると

電圧フォロアーの部分はバイアス電圧を発生させる部分も含みますが、回路的にはすこし上下対称となっていません。
そこで、LEDで電圧発生させて、抵抗での分圧でバイアス電圧を調整するような回路にしてみました。

上下対称を意識してすこし変更です。


(つづく?)