久しぶりにアンプをつくってみようかな?の巻き(後編) 2021.3.31
(前編はこちら)
基板が出来上がってきました.
左側が無帰還タイプ、右側が帰還タイプです.
さて、どちらから手をつけるかな?
まずはPA-A2(帰還型)から 2021.4.1
まずは部品点数の少ない帰還型のPA-A2から作ってみましょう.
使用した部品は汎用品ばかりです.小信号用のトランジスタは2SC1815/A1015を使いました.選別はしていません.
終段のドライバーは2SC3421と2SA1358です.これもMOSFETのドライブなので2SC1815,A1015でも良かったかもしれません.
入力のカップリングコンデンサ(四角の大きい)は1.5uFの貰い物です.
まずは完成です.お出かけ用の写真を撮っておきました.
さっそく動かしてみましょう!
終段のトランジスタはMOSFETのIRFP140(N)とIRFP9140(P)を使っています.
また、電源は電圧増幅段と電力増幅段を共用にしています.できれば電圧増幅段は電力増幅段より5V近く高いほうが
いいのですが、まあ動作確認なのでいいでしょう.
終段のトランジスタを取り付けました.電源は電圧増幅段、電力増幅段とも共用です.
電源は約24Vのものを使いました.
電源投入後にまず実施するのはバイアス電流とオフセット電圧の調整です.
バイアス電流はVR3を回して20mA程度に設定です.エミッタ抵抗は0.22Ωを使っているので
両端の電流が4mV程度になるようにしました.,
次はオフセット調整です. オフセット調整はVR1,2を使用します.既定の状態はVR1,VR2とも中央ですが、
その状態でのオフセット電圧は約6mVでした.トランジスタを選別していないのにかなりいい感じです.
そして、VR1,VR2をちょっとだけ動かしてゼロに調整です.
調整前(VR1,VR2とも中央)では約6mVのオフセットがありました.
出力オフセット電圧はVR1,2で調整です.
最大出力振幅は?
使用した電源は約24V(23.5Vあたり)ですが、どのくらいの振幅がでるかをまずは調べてみました.
入力信号の振幅を徐々に上げていくと約16V程度でクリップするようです.
23.5V電源の場合、出力は16V程度でクリップしています.
電圧降下は23.5-16=7.5Vです.結構大きいですね.でも、電圧増幅段も電力増幅段も共用
しているのでこんなものでしょう.ちなみに、原理的に発生する電圧降下は
MOSFETの電圧降下 4V
ドライバTRの電圧降下 0.6V
電圧増幅段の出力TRの電圧降下 0.6V
電圧増幅段の電源フィルターの電圧降下 0.6V
の合算ですから、5.8Vは最低でも落ちます.その他抵抗での電圧降下などを含めると7V程度
の電圧降下は仕方ないところでしょう.
周波数特性は?
詳しくはゲインフェーズアナライザを使うところですが、まずは簡単にオシロで観測です.
無負荷状態で1kHzのときに出力振幅を10Vに設定して周波数を上げていきます.
およそ200kHzで-3dBの結果でした.これは位相補償用の47pFに依存しているので、
これをもっと小さい値にすれば周波数特性はあがりますが、そこまで周波数特性を上げても
あまり意味がないので回路の安定性確保の点から47pFとしましょう.
f=1kHz.振幅は10Vに設定.
f=20kHzではフラットです.
f=100kHzでは0.5dBくらい低下です.
f=200kHzで-3dBです.
次はすこし負荷をかけて
といっても、放熱板が小さいのであまり大きな電流は流せません.
負荷抵抗は5.6Ωとして振幅は5V程度になるように設定です.これでも
電流は1A近く流れますから、出力は2.5Wになります.スピーカに接続すれば大音量です.
こちらも負荷をかけても、特段周波数特性には変化はありませんでした.
負荷にセメント抵抗5.6Ωを接続します.
負荷をかけると、電源電圧も若干低下します(1V程度低下).
f=1kHz |
f=20kHz |
f=100kHz |
0 f=200kHz |
まずはこれでPA-A2アンプの動作確認は完了です。
さて、次は無帰還タイプ(PA-A2N)にかかりましょう
こちらは、すこし部品点数が多いです.抵抗の種類が多いので部品箱から探してくるのに時間がかかります。
あれ?
組み立てる前に、基板を眺めていてすこし違和感を感じました。C2,C3のパターンがGNDに接続されています。
なんで、チェックのときに気づかなかったのだろう?まあ、修正は簡単です。修正しなくても、ダイオードとLEDは
両方取り付けることはなく、どちらか片方だけなので、使用しない方にC2,C3を取り付けてもいいでしょう。
でも、とりあえず修正しておきましょう。
本来はこの回路図になっていなければなりません。 |
C2,C3の端がGNDに接続されているパターンになっていました。 |
修正方法はGNDに接続されている箇所をカッター等で切断です。切断後はテスタで絶縁状態を確認しておきます。
半田面については、パタンのレジストを削って、C2,C3をラインに接続です。
まずは実装完了?
部品点数が多いので、時間かかるかな?と思っていましたが抵抗以外は部品の種類も少ないので割と短時間で
仕上がりました。トランジスタも選別はおこなっていません。
で、ちょっと悩んだのはエミッタ抵抗です。もともとはMPC74の金属板抵抗を使おうかと思っていましたが、
手持ちの部品も少なくなっているので、今回は先日デジットで買った酸化金属皮膜抵抗をつかうことにしました。
ランドのピッチが10mなので、それに合うようにリード線を加工して取り付けています。
最初はMPC74の金属板抵抗(白色のもの)を使おうかと思っていましたが、手持ちも少ないのでやめました。
エミッタ抵抗は酸化金属被膜抵抗としました。これで完成です。
動かしてみましょう!
動作させるためには、終段のトランジスタを取り付ける必要があります。ここでは、東芝の2SC5200と2SA1943を
使いました。自作パワーアンプの定番のようなトランジスタです。
トランジスタを取り付けたら、仮配線をして動作の確認に入ります。
終段のトランジスタを接続です。このトランジスタってかなりでかく感じます。
銘柄はスタンダードな2SC5200/A1943を使いました。もちろん、これ以外でもいいでしょう。
いよいよ仮配線して動作させていきます。
まずは調整から
この基板には4つのVRがありますので、まずはそれの調整をおこないます。
まずは入力を短絡した状態で下記の手順で調整です。
@VR1,2を調整して初段に流れる電流を約0.65mA程度に揃えます。
これはR7,R4の両端の抵抗が1.3Vになるように設定です。1.3Vから多少ずれてもいいですが、
同じ値になるように調整します。
@まずはR7,R4の両端電圧が1.3VになるようにVR1,2を調整します。
Aバイアス電流を調整(VR4)
VR4を回してエミッタ抵抗(R23〜R26のどれでも可)の両端の電圧を測定して
電流が20mA程度流れるように設定します。ここでは0.22Ωの抵抗を使ったので
両端の電圧が4mV程度になるように調整です。バイアス電流は素子の温度で変化するので
厳密に調整する必要はありません。
Bオフセット調整(VR3)
出力電圧がゼロになるようにVR3を調整します。
最大出力電圧は?
調整後の電源電圧は21.5V程度になっていました。この状態で、無負荷で測定したところ
最大出力振幅は17V程度になりました。電源電圧からは-4.5Vになります。トランジスタ7個の
ドロップ分になるはずなので、0.6×7=0.42ですから、ほぼ計算通りでしょう。
最大振幅は電源電圧から4.5V程度低くなります。
周波数特性は?
これも無負荷で測定してみました。20kHzで-0.5dB程度のようです。
f=1kHzです。
f=20kHzです。-0.5dB程度の振幅低下がありました。
f=50kHzです。ここが-3dBポイントのようです。
無帰還アンプなので回路定数や素子の選定で周波数特性は大きくかわるでしょう。
こだわり派向けのアンプかもしれません。
負荷をかけてみましょう!
帰還アンプのPA-A2と同様に5.6Ωのセメント抵抗を接続です。振幅は1kHzで5Vになるように
入力信号を調整です。負荷をかけても、とくに変化はないようです。負荷を繋いで、しばらく通電
するとセメント抵抗も終段のトランジスタも暖かくなってきます。
負荷(5.6Ω)有り。f=1kHz。
負荷(5.6Ω)有り。f=20kHz。
負荷(5.6Ω)有り。f=50kHz。
あ、書くの忘れてました・・・・
このアンプはゲイン約20倍(26dB)になっています。
とりあえず、これで動作はOKでしょう。帰還がかかっていないので当然のことながら
発振はないので、位相補償用のコンデンサなどからは開放されます。
まずは、整理のためにもドキュメントを作成しておきましょう #これが一番面倒です(笑。
音出ししてみましょう! 2021.4.3
LM3886のパラアンプの音出しにあわせて、ここで作ったアンプ基板も音出ししてみました.
試聴用の電源や環境はそちらを参照ください.
ただし、アンプ基板は1枚しかありませんから左右のスピーカをパラに繋いでいます.
そのためアンプの負荷は結構高いかもしれません.
まずはPA-A2から
先入観ありありですが、MOSFETは好きな音色です.鋭い切れ込みで音が迫ってきます.
それとMOSFETは熱暴走しにくいですから、.小さい放熱板ですがなんとなく安心して聞いてられます.
でも、やっぱり2台のスピーカがなっているといってもモノラルだから、ちょっと音楽の雰囲気が違うな〜.
PA-A2を試聴しています.
次はPA-A2N
一聴してなんか違う感じ.なんというか音の温かみ?ひょっとして終段がバイポーラだから?
大人の音かな?
なんやかんや色々と違うCDも聞いてみましたが、玄人ポイ音です.まったくもって主観ですので
話半分(いや1/10くらい?)で読んでもらえればいいですが....
ただ、しばらく聞いているとかなり放熱板が熱くなってきました.さほど大きな音では鳴らしていませんが、
回路の動作点が平衡状態になるまで、どんどんバイアス電流が上がっているのでしょう.やはり、
バイアス電圧発生TRとは熱結合させたほうがいいようです. 終段にバイポーラを使うときの
お約束ですね.
PA-A2Nを試聴しています.
まあ、2種類のアンプを聞いてみましたが、使うトランジスタや抵抗、そして電源が変われば
また音も変わってくるでしょうから、適当に聞き流してもらったほうがいいでしょう.
データ集
アンプにつかう部品の定数は各自のシステムや好みで色々と変更できる楽しさがあります。
ここで使ったアンプのSPICEデータをあげておきます。
ちなみに使っているSPICEはLTSPICEです。
使い方がわかならければ、BBSで質問すれば誰か答えてくれるでしょう(他人任せです(笑。
LTSPICEのインストーラ(一応現在の最新版) | インストーラ |
PA-A2のデータ | データ |
PA-A2Nのデータ | データ |
バイポーラトランジスタのデータ (LTSPICEのLIBに追加してください。通常は下記にあります) C:\Program Files\LTC\LTspiceIV\lib\cmp\standard.bjt |
追加のテキストファイル |
FETランジスタのデータ (LTSPICEのLIBに追加してください。通常は下記にあります) C:\Program Files\LTC\LTspiceIV\lib\cmp\standard.jft |
追加のテキストファイル |
トンジスタの選定について 2021.4.5
アンプ製作で使用するトランジスタの選定は悩ましいところでもあり、また楽しいところです。
こだわりのある人は、「初段には絶対2SC〇〇を使わなければ!」ということもあるでしょう。
私の場合はあまりこだわりはなく、汎用品の2SC1815/A1015をたくさんつかったりします。
これは、単に手元にたくさんあるということと、秋月でも安価に買えるためです。
ただ、当たり前のことながらどこにでも好きな素子をつかっていいわけではなく、まずは最大定格以内で
使う必要があります。
そこで、今回検討したアンプ基板での使用可能なトランジスタの容量について整理してみましょう。
トランジスタのグループ
トランジスタは星の数ほどありますが、使うときは定格にあわせて大体下記の4つのグループから
つかうようにしています。
タイプ | 用途 | トランジスタ例 | パッケージ例 | Ic (流せる電流) |
Vcb (耐圧) |
Pc (損失、容量) |
秋月で購入するとしたら |
小信号用 | 使用電圧も使用電流も小さくて 「とりあえずビール」のノリで使う トランジスタ。部品箱にゴロゴロ。 |
2SC1815/A1015など | TO-92が多い。 トランジスタといえばこれ。 |
150mA程度 使うなら数10mA以下 でしょう |
50V程度 | 300〜400mW 程度 |
2SC1815/A1015はまだあるようです。 これらはセカンドソースもあるので、 入手には困らないでしょう。 |
高耐圧用 | 電流はさほど流れないが、小信号用では ちょっと耐圧が不足する場合に使用。 |
2SC3423/A1360など | TO-126が多いかな? |
50mA程度 |
100V以上 | 1〜5W程度 | 2SC3423はありますが、2SA1360はないようです。まあ、汎用品なので入手は簡単と思います。 あるいは下の欄の小電力用にしてしまうかでしょう。 |
小電力用 | 1〜2A程度の電力増幅に使う。 ヘッドホンアンプの終段など。 |
TIP31C/TIP32C | TO-220が主流ですね。 |
1〜3A程度 | 100V以上 | 20W程度 | 2SC4883/A1859あたりかな? (Ic=2A、Vcb=180V) |
大電力用 | 電流も10A以上流せるもので パワーアンプの終段用などに使用。 |
2SC5200/A1943 | TO-3Pです。ごついです。 このタイプはあまり見なくなりました。 |
10A以上 | 150V以上 | 50W以上 | 2SC5200/A1943が定番でしょう。 |
PA-A2で計算してみましょう!
PA-A2で高目の電圧として±35Vとして、負荷8Ωで入力振幅2V、ゲイン20としたとき、出力は完全に飽和するような
状態での回路に流れる電流をSPICEしてみます。図中の電流はほぼ最大電流を示しています。
PA-A2を電源電圧35V、ゲイン20倍として、入力振幅2Vを与えた場合の電流値
トランジスタに加わる電圧は入力段では電源電圧(35V)、電圧増幅段以降では電源電圧×2(70V)が最大値になります。
想定される電流と電力損失から使用可能なトランジスタの容量をまとめると次になります。
ちなみに、バイアス電圧発生用のトランジスタには最大でも数Vの電圧しかかかりまえせんんから小信号用でも大丈夫です。
電源電圧 | フィルター | 入力段 | 電圧増幅段 | バッファー | 終段 | |
正負35V | 最大電流 | 4mA | 1.4mA | 3mA | 7mA | 3A |
必要耐圧 | 35V | 35V | 70V | 70V | 70V | |
最大損失 | 数10mW | 50mW | 210mW | 490mW | 210W | |
必要トランジスタ | 小信号用 | 小信号用 | 高耐圧用 あるいは 小電力用 |
高耐圧用 あるいは 小電力用 |
大電力用 |
ちなみに、電源電圧を24Vとするとかなり変わります。流れる電流は終段以外ほとんどかわりません。
しかし、使用可能なトランジスタは大きくかわります。終段以外はすべて小信号用が使用可能になってきます。
ただ、バッファー部は336mWで、2SC1815のPc=400mWを考えるとあまり余裕はありませんが・・・・・・。
電源電圧 | フィルター | 入力段 | 電圧増幅段 | バッファー | 終段 | |
正負24V | 最大電流 | 4mA | 1.4mA | 3mA | 7mA | 2A |
必要耐圧 | 24V | 48V | 48V | 48V |
48V | |
最大損失 | 数10mW | 67mW | 144mW | 336mW | 96W | |
必要トランジスタ | 小信号用 | 小信号用 | 小電力用 | 小電力用 | 大電力用 |
結論としては、むやみに電圧をあげるよりかは電圧を低めにした方が、使用可能なトランジスタの選択幅が広がってきます。
次にPA-A2Nで計算してみよう!
PA-A2Nで高目の電圧として±35Vとして、負荷8Ωで入力振幅2V、ゲイン20としたとき、出力は完全に飽和するような
状態での回路に流れる電流をSPICEしてみます。図中の電流はほぼ最大電流を示しています。
あわせて24Vの場合のSPICE結果も出しておきます。
PA-A2Nを電源電圧35V、ゲイン約20倍として、入力振幅2Vを与えた場合の電流値
35Vの場合は下表になります。バッファー2は最大で2.8Wで、実効値としても1.4Wになります。これが常時ではないとしても
小さい放熱板でもとりつけておいた方が、気が休まるかもしれません。
電源電圧 | フィルター | 入力段 | 電圧増幅段 | バッファ1a | バッファ1b | バッファ2 | 終段 | |
正負35V | 最大電流 | 12mA | 0.7mA | 1.5mA | 2mA | 7mA | 40mA | 1.9A |
必要耐圧 | 35V | 35V | 70V | 70V | 70V | 70V | 70V | |
最大損失 | 数10mW | 25mW | 53mW | 140mW | 490mW | 2.8W | 133W | |
必要トランジスタ | 小信号用 | 小信号用 | 高耐圧用 あるいは 小電力用 |
高耐圧用 あるいは 小電力用 |
高耐圧用 あるいは 小電力用 |
高耐圧用 あるいは 小電力用 (放熱板は必要かも) |
大電力用 |
下記は24Vで動作させた場合です。多くが小信号用のトランジスタでいけそうです。
バッファー2の最大損失は1.3Wとありますが、実効値としてはその半分程度の0.65Wになります。
また、そのような大出力を連続して出すとも考えられないのでバッファー2の放熱板は特段不要です。小電力用の大き目のTO220パッケージだと
不要でしょう。やはり、電圧を低くするとメリットが大きいです。
電源電圧 | フィルター | 入力段 | 電圧増幅段 | バッファ1a | バッファ1b | バッファ2 | 終段 | |
正負24V | 最大電流 | 12mA | 0.7mA | 1.3mA | 2mA | 6mA | 27mA | 1.2A |
必要耐圧 | 24V | 24V | 48V | 48V | 48V | 48V | 48V | |
最大損失 | 数10mW | 20mW | 62.4mW | 96mW | 288mW | 1.3W | 57W | |
必要トランジスタ | 小信号用 | 小信号用 | 小信号用 | 小信号用 | 小信号用 | 高耐圧用 あるいは 小電力用 |
大電力用 |
PA-A2Nのゲイン変更による影響
PA-A2のような負帰還をかけるタイプのアンプだと、2本の抵抗の比で自由にゲインを変更できます。またゲインの変更によって
回路内の動作電流が変わるということはほとんどありません。
それに対して無帰還のPA-A2Nでは、ゲインを変えると特性の変化や回路電流の変化が生じるようです。
ゲイン変更をする場合はここの定数を弄ることになると思います。ちょうど、電圧増幅段の抵抗になります。
ゲインを変更する場合の抵抗器はここでしょうね。
以下にすこし回路定数を変更した場合のSPICE結果を載せます。なお、入力信号は0.1Vで解析しているため、ゲインについては下図の左側縦軸に+20dBかさ上げしてみてください。
CASE1 | ゲインを10倍にするためR15を 36kΩに変更しました。もともと設定 したゲイン20倍のときより高域での 周波数特性が若干改善しています。 またR15を変更した場合、電圧増幅段 のトランジスタに流れる電流は1.5mAと 小さいです。これなら、小信号用のもの が使えます。 |
R13=R14=470 R15=36k GAIN=19dB (約10倍) 電圧増幅段電流 1.5mA |
|
CASE2 | これがもともとの設定です。 ゲインは約20倍です。 R15は75kΩです。 |
R13=R14=470 R15=75k GAIN=25dB (約20倍) 電圧増幅段電流 1.5mA |
|
CASE3 | ゲインを40倍にするためR15を 150kΩに変更しました。 高域の周波数特性が若干低下しました。 低下といっても、100kHzで-3dB程度 なのであまり問題ないと思います。 |
R13=R14=470 R15=150k GAIN=30dB (約40倍) 電圧増幅段電流 1.5mA |
|
CASE4 | 今度はR15をそのままにして、R13,R14を低く します。これでもゲインがあがります。 R13,14を240Ωにするとゲインは約40倍です。 高域の周波数特性は同じ40倍でも、CASE3よりかは 若干改善したようです。 でも、電圧増幅段の電流は2.3mAと多くなりました。 |
R13=R14=240 R15=75k GAIN=30dB (約40倍) 電圧増幅段電流 2.3mA |
|
CASE5 | 今度はR15を下げて、さらにR13,R14も100Ωに下げた 設定にします。この場合でもゲインは約40倍です。 高域の周波数特性は、さらにCASE4より改善したようです (ごくわずかですが・・・)。 電圧増幅段の電流は6mAとさらに大きくなりました。 だんだん小信号用のトランジスタでは厳しくなってきます。 |
R13=R14=100 R15=36k GAIN=30dB (約40倍) 電圧増幅段電流 6mA |
|
CASE6 | R13=R14は100Ωのままで、目的とするゲイン20倍にするために R15を20kΩに設定です。 電圧増幅段の電流は6mAと大きいままです。 CASE2と周波数特性を比べると・・・あまり変わらないような気が します。小信号用のトランジスタが余裕で使えるCASE2のほうが いいかな? |
R13=R14=100 R15=20k GAIN=26dB (約20倍) 電圧増幅段電流 6mA |
自分のシステムとしてはアンプゲインはどれも20倍程度にしているので、CASE2かCASE6かのどちらかになります。
電圧増幅段を動かす電流はCASE2の1.5mAでは少ない気もするので、CASE6くらいでもいいのかもしれません。
でも、電圧増幅段を動かしているのは入力段ですから、そちらの負荷を考えると電圧増幅段の動作電流は下げたほうがいいのかもしれません。
トランジスタのhFEを100程度と考えると、CASE6のように6mAを制御するには入力段で60uA程度の電流を扱うことになります。
入力段の動作電流が600〜700uAを考えると1/10くらいになりますから、ちょっと大きいかな〜。
それに対してCASE2だと入力段に作用する電流は15uA程度ですから、1/40くらいになるのであまり影響を及ぼさないかもしれません。
まあCASE2をとるか、CASE6をとるかは、ひょっとして好みの範疇なのかもしれません。
アイドル電流はどうなる? 2021.4.7
アンプをAB級で動かすとなると終段のトランジスタにはいくばくかのアイドル電流(バイアス電流ともいうのかな?)を流す
必要があります。そのときに終段にバイポーラトランジスタを使う場合は、バイアス電圧発生用のトランジスタとの熱結合は
必ずといっていいほど必要になってきます(エミッタ抵抗やベース抵抗が大きい場合は不要)。方や、MOSFETは素子のON
抵抗が温度とともに高くなるのでバイポーラに比べる熱暴走の危険は低くなります。
そこで、PA-A2とPA-A2Nに少し多めのアイドル電流を流すように設定して、時間による電流の変化を観察してみました。
このテストをするには、ちょっと大き目の放熱板にとりつけなければトランジスタが過加熱してしまうので、ほぼ実機につかうような
サイズの放熱板を用意です。押し入れを探したら、ちょうど実験によそさそうな放熱板がみつかりました。
これって、いつどこで買ったんだろう?10個みつかったので、結構な重さになるので店頭で買ったものではないはず。
通販だとしたら秋月かな?全然覚えていないです。
テストに用いた放熱板。サイズは97×50×30mmです。
まずはPA-A2から(MOSFET)
放熱板にM3のタップをたててトランジスタを固定です。
バイアス電流は初期設定としてはかなり多めの100mA程度にしました。
通常、私の場合は20mA程度しか流しませんが、熱がどの程度でるかもしりたかったので
かなり多目の設定です。
まずはバイアス電圧発生トランジスタは熱結合していません。というか、MOSFETをつかったアンプの
ときはほとんど熱結合させたことないかもです。
放熱板がとりつくと、なんとなくパワーアンプという感じがします。
電源は24Vのスイッチング電源です。2台つかった±24Vで動作させます。
結果は次図のようになりました。アイドル電流とMOSFETのVGS(ゲート・ソース間電圧)を示していいます。
電源ON時に約100mAに設定したあとは、どんどん電流が増えていきますが140mA程度に達してからはほぼ一定になりました。
2時間以上ほったらかしてもこの値で安定です。
熱結合なくても熱暴走はしていないようですね。
放熱板を触ると暖かい感じです(熱くはない)。
次に熱結合して実験しようかと思いましたが、不要かな〜と思ってやめてしまいました。
でも、本来はあったほうが心の平穏は保てるかもしれません。それと、バイアス電流をガンガンに流す場合は
あったほうがいいでしょうね。
PA-A2(MOSFETを使用)でアイドル電流を約100mAに設定した場合の時間変化(エミッタ抵抗は0.22Ω、電源電圧±24V)
次はPA-A2N(バイポーラ)です
さて、次はバイポーラトランジスタをつかったPA-A2Nの場合です。このアンプは終段は2パラ構成ですが、
放熱板がやや小さいのでシングルにしています。
この実験では熱結合有りと熱結合無しの場合でデータを取りました。
PA-A2Nのトランジスタの放熱板を変更です。トランジスタはシングルです。
こちらは、バイアス電圧発生用TR(Q8)と熱結合させた場合です。
結果は次のようになりました。
最初は熱結合無しでやりましたが、電源投入からアイドル電流がどんどん増えていき、最初の設定で100mAにしていたものが
20分程度で4倍程度まで増えました。放熱板を触ると、暖かいから熱い領域になってきたこともあり実験開始20分で修了しました。
その後、設定を変えずQ8を放熱板に取り付けて、放熱板が冷えたのを確認してから再度測定です。
熱結合した場合は120mA程度まで上昇したのちは、ほぼ一定になりました。20分経っても全然増えないので実験修了です。
放熱板をさわったらPA-A2と同様、暖かい程度です.
やはり、パワーアンプの終段にバイポーラトランジスタをつかう場合は熱結合させたほうがいいようです。
でも、エミッタ抵抗やベース抵抗の値が大きけいような回路だと熱結合は不要ですけれどね。
PA-A2N(バイポーラTRを使用)でアイドル電流を約100mAに設定した場合の時間変化(エミッタ抵抗0.22Ω、電源電圧±24V)
マニュアル書き書き・・・・
だんだん手抜きになってきたような気がしないでもないですが、いつもの製作マニュアルを作成です。
PA-A2_Manual.pdf
PA-A2N_Manual.pdf
そろそろリリースしましょう。
リリース開始しました! 2021.4.8
PA-A2でFETを動かしてみる.
MOSFETではなくパワーFETの2SK1529/J200でも同様にアイドル電流の変化を観察してみました.
今回は熱結合もあわせてテストです.
テストにあたり、R11は1kΩに変更です.MOSFETはゲートオン電圧がおよそ4Vなのに対して、
これらのパワーFETは2Vなのでバイアス電圧は低くしておく必要があります.MOSFET用の回路定数の
ままで、パワーFETをつないだらVRを一番絞っておいても大電流が流れてしまいますから要注意です.
これで試してみましょう.
結果としてはMOSFETと同様に、熱結合なしでもアイドル電流が暴走することはないようです.
初期に120mA程度に設定したのちに150mAまで上昇した後に平衡状態になりました.
対して熱結合をすると、初期設定から徐々に下がって平衡状態となりました.
VGSをみると、熱結合なしにくらべて落ち方が大きいです.熱結合により温度とともに、
バイアス電圧が低下しているのが分かります.
MOSFETと
PA-A2(パワーFET)でアイドル電流を約100mAに設定した場合の時間変化(エミッタ抵抗0.22Ω、電源電圧±24V)
結論としては、MOSFETやパワーFETをつかう場合は
アイドル電流が低いのなら熱結合なし
→平衡状態でアイドル電流が高くなったとしても、熱暴走しないため.
電源ONの経過とともにアイドル電流が上がって本調子になってきたりして!
逆に熱結合にすると、温度が上がったときにバイアス電流が落ちてしまってB級になってしまう可能性がでてきます.
アイドル電流を沢山流すなら熱結合あり.
→温度があがって少々アイドル電流が減っても十分にAB級は維持できるため.
熱暴走しないとしても、想定した温度より上げたくない場合が多いでしょう.
まあ、どちらを選ぶかは製作者の考え方ですね.
私はそもそもアイドル電流は少な目派なのでオキラクな方の熱結合なしでしょうか.
(つづく?)