電子ボリューム(その4)
またまたR.さんから資料をいただきました。電子ボリュームの2方式に関するものです。
1.アナログスイッチをつかった電子ボリュームの方式
a.電流加算方式
基本的な回路構成は下のようになります。入力の電圧信号を16個の1/2〜1/65536の
電流源に分割します(別に16分割である必要はない)。
そしてアナログスイッチで電流合成をして、最後にIV変換するといったものです。
これはアキュフェーズに使われているようです。
この方式だと、アナログスイッチの内部抵抗は関係ありませんし、抵抗の非線形の影響も抑制されます。
また電流駆動ですからS/Nもよさそうです。
問題はVI変換に必要な素子が多くなる点です。どのくらい多くなるかはあとでまとめましょう。
b.R−2Rラダーネットワーク方式
基本的な回路構成は下のようになります。入力信号をR−2Rラダーで分割して
アナログスイッチで電流合成して、最後にIV変換するといったものです。
この方式はレビンソンに使われているようです。
この方式では、R−2Rの出力をアナログスイッチで受けているため、アナログスイッチの内部抵抗の誤差が、
設定音量の非線形性を生じさせる原因になりますが、DACではないのでこの誤差は音質に影響はありません。
上記の電流加算方式に比べて部品点数が少ないメリットがあります。
2.部品点数は?
アマチュアが自作する場合は、部品の点数はもろに製作費用に響いてきます。また部品が多いとつくるのも大変です。
電子ボリュームをつくる場合、どのくらいの部品点数が必要か比較してみましょう。
分割数 | リレー | 抵抗 | アナログスイッチ | 必要IC数 | 特徴 | |
リレー式電子ボリューム | 140分割 (0.5dB毎) |
15個 (2回路) |
約32 | 2個(バッファーに使用) | 部品点数は多くない。 パッシブボリュームの魅力はある。 |
|
電流加算式ボリューム | 216 | 約160 | 32回路分 | 約40個 (DUAL-OPAMPを想定) |
とにかく部品点数多い。 精度はよいかも。 |
|
R−2Rラダーネットワーク方式 | 216 | 約64 | 64回路分 | 約18個 | 部品点数はそこそこ。 高級メーカも使っているので、回路的には安心? |
|
市販品をつかう(PGA2310) | 256 (0.5dB毎) |
0 | 2個(入力バッファー有り) | お気楽です(モノリシックの性能の良さある) |
3.どれにしようか?
結構悩んでしまいます。いっそのこと全部つくっちゃいましょうか(汗)。
しかし、電子ボリュームをつくるということは(わたしの場合)プリアンプを作ることとほとんど等価になるので、
電子ボリュームの方式の選択以前に全体の構成をよく考えておかなければなりません。
こんな構成になるでしょうか?
ケースの中の部品構成(考え中)
電子ボリュームに裂けるスペースはあまり大きくありません。
ん〜電源と2階建てにするか、電子ボリューム自体を2枚にするか・・・・
液晶もつけるように考えると、いまのケース(タカチの幅23cm)では小さいなな・・・
将来的には電子ボリューム6chをいれて、マルチシステム用のボリュームコントローラにしたいし・・・
あれもこれも考えると発散しそうです。
すくなくともボリューム自体は汎用性をもたせて、3線制御できるようにしたおいたほうが無難なようです。
変換用のICはNJU3712(8ビット)を2個並べれば済みますしね。
4.やっぱりR−2R方式かな?
規模もそこそこで、作りやすいR-2R方式がまずは最有力でしょうか。
ちなみになぜこのような回路で1/2n電流加算ができるかみてみましょう。
下図は4ビットのR-2Rラダーネットワークを表しています。
4ビットでもR−2Rラダーの出力電流
2Rの抵抗(図ではR2,4,6,8)はすべてGND接続されています。
流れ出る電流は1〜1/8に変化していきますので、どの出力を合成するかを選べば電子ボリュームになります。
注意する点は出力は対GND電位として接続しないといけません。そのためオペアンプをつかったIV変換に入力する必要があります。
そして、電流合算しない出力もGNDに落とさなければなりません。これは余分にスイッチが必要になることを示しています。
さて、アナログスイッチが1出力あたり2個必要ですが、DG201に代表されアナログスイッチは4個のスイッチが入っています。
中でもDG213は2個のスイッチの論理が逆になっているので、この電子ボリュームの用途には最適です。ふつうにDG201などをつかうと、
論理反転のためのINVERTORが16個必要になり、結局素子数が増えてしまいます。
アナログスイッチの論理の種類。正論理、負論理そしてそのミックスもあるのが便利。
5.具体的な構成は?
さて具体的に使う石も考えながら構成をまとめていきましょう。
石の選択が結構難しく、入手できなければ意味がありませんからメジャーなところで購入できるものを選択していきます。
しかし、結構かかりそうです。部品代だけでも1万円はこえちゃいますね。
PIC+PGA2310がお手軽に思えてきました(笑)。
電子ボリューム部
方式 | R−2Rラダーネットワーク方式 | - | |
制御信号 | 3線シリアル制御 | NJU3712(@221)×4 | 884 |
入力バッファー | OPA134など | OPA134(@276)×2 | 552 |
R-2R抵抗 | 1/4W金属皮膜 あるいは1/8Wチップ抵抗 |
抵抗は約66本 | - |
アナログスイッチ | MAX4523 あるいは DG201+DG202 |
MAX4523(@274)×16 あるいは DG201,202(@396)×計16 |
4384 or 6336 |
IV | OPA134 | OPA134(@276)×2 | 552 |
バッファー | ダイヤモンドバッファー (LPF有り) |
OPA2134(@324)×1 2SC1815/A1015など |
324 |
MUTE | リレー | A4.5W-K(@150)×1 | 150 |
その他 | オンボードにはPICの小さい マイコンが搭載できるスペースを確保 (スタンドアロンで使用可) |
- | - |
電源 | アナログ用 正負15V (5V電源は内部で生成) |
- |
制御部
方式 | マイコン(H8) | H8/3048(@3800) | 3800 |
ボリューム | Bカーブボリューム あるいは ロータリエンコーダ |
(エンコーダの場合は加速制御 ができたらいいな) |
- |
その他 (OPT) |
表示用LED 4桁(−80.0〜0.0) スタティック点灯 |
NJU3712(@221)×4 | 884 |
- | バランス調整 | - | - |
- | - | - | - |
6.どのくらいの大きさになる?
こればっかりは実際にアートワークを描いてみないところがありますが、
もっとも部品点数の多い電流加算式でDIPパッケージをつかって必要な部品を配置してみると、
こんな感じです。基板サイズで155×124mm(片ch)と大きくなりますから、ステレオの場合は2段になりそうです。
電流加算式の部品配置案。結構大きくなっちゃいます。
こちらはR−2R型です。こちらもDIPパッケージだけををつかって必要な部品を配置してみました。
サイズは115mm四方程度とすこし小さめです。
ついでに配線もしかかりはじめました。入力のバッファーアンプは出力と同じ側(右)にもってくるか、
反対側(左)にもってくるか、すこし悩んでしまいます。R-2Rネットワークに近い方がいいのでしょうが、
左右に配線を出してしまうと、ケースに入れたときがすこし面倒です。
R−2R方式の部品配置案。こちらも結構大きいですね。
DIP部品を使っているので仕方がないところがあります。
7.部品の選定(その1) 2006.9.12
電子ボリュームでのキーパーツはなんといってもアナログスイッチ。
レビンソンではビシェイのDG213が使われている。このDG213のスイッチ抵抗は45Ω。
でも、これはDIGIKEYでは取り扱いなし。
DIGIKEYのリストをみていて手に入りそうなものを探していると、DG413があった。
http://www.intersil.com/data/fn/fn3681.pdf
これはスイッチ抵抗は35ΩでDG213より低い。そして、INTERSILのものでDIP16のものがあった。
ということで、今回の電子ボリュームはこれに決定しました(@220円と比較的安いこともある)。
決定しました、と過去形で書いたのは試作も必要なのでとりあえず買っちゃいました。
また、シリアル−パラレル変換につかう石もNJU3712ではなく74HC4094にしようと思います。
これも同じ機能に対して安い(@87円)のが最大の理由です。
8.MARUさんから評価用に貸してもらいました。2006.9.19
ADG623(アナログスイッチ)をつかったR-2Rラダーの電子ボリュームです。
非常にコンパクトに収まっています。基板は多分4層ですね。アナログスイッチのOn/OFF制御がないので
すぐには動かすことはできませんが、動作チャレンジしてみたいと思います。
チップ部品で組めばここまでコンパクトに出来ますね。
サイズは約100×55mmです。これでステレオ分
裏面はチップコンデンサが集中してついています。
ピッチ0.5mmの半田付け!これは機械付け?
(追補)
回路図もいただきました。
また実装における貴重なコメントもいただきました。
1.OPAx227、OPAx604、OPAx134を試しましたが、OPAx134が特性BEST。(音が良いとは別)
2.R-2Rの抵抗値と引き回し方で、f得は変化します。
3.R-2Rの前段のopampは容量負荷に強い方が良い。(OPAx227は最悪)
なにより驚くのが、「半田付けは「全て私の手付け」です。(1枚作るのに3時間位かかっています。)」だそうです。
いやいや、綺麗な仕上がりに参りました!
9.R−2R型のボリューム基板のアートワークはとりあえず完了。
DIP部品を使用したため少し基板サイズは大きいです。片チャンネルで96×125mです。
ユニバーサルスペースはPICマイコンをのせる場合のことを想定しています。
制御は3線制御で、ボードセレクト用のジャンパーを配置しました。このボリューム基板を最大で8枚まで
独立してコントロールできるようにしてみました。4Wayマルチのボリュームコントロールセンタをイメージしています。
出力はNOSDAC3と同じ回路でOPアンプIV変換にダイヤモンドバッファwithDCサーボです。
(クリックすると大きくなります)
つぎはコントローラ用のマイコンを搭載できる基板の設計にかかります。
秋月のH8/3048あるいは3052を搭載するように考えています。ボリュームだけにはオーバスペックですが、
いろいろと拡張するためにも、IOの多いものを選びました。いや、本音は比較的使い慣れているという理由です(汗)。
コントローラの横幅はボリューム基板の高さと同じにしていますので、並べたときに配置が整うようにしています。
コントローラ基板(クリックすると大きくなります)
(つづく)