電子ボリューム(その2)
昔に作った電子ボリュームのプリント基板を眺めていると、だんだん記憶がもどってきました。ついでに備忘録としてブロック図を書いてみました。
前段が10dB毎の減衰で、後段が1.25dB毎になっています。8接点切り替えのアナログスイッチを使ったために、
その内部抵抗の影響を抑制するためにバッファーアンプが段毎にはいっています。
過去につくった電子ボリュームのブロック図。
実際の分解能は8×8=64ではなく、前段の1接点はMUTEにつかうことから、実際には(8−1)×8=56分解能になります。
それでも1.25dB毎で56分解能あれば、微小音量から大音量までスムーズに変化させることができます。
抵抗値については、エクセルなどをつかえば簡単に計算できます。実際には計算で得られたズバリの値の抵抗は滅多にありませんから、
E24系列から選ぶことになりますが、それでも十分な精度が確保できるでしょう。
ここで、全体の抵抗値を10kΩになるようにした場合のR1−*、R2−*については計算値自体は下表のようになります。
途中でバッファーがはいっていますから、実際にはもっと高い値を選定すると同時にE24系列の値に近くなるように全体の抵抗値を選択しています。
R1-1 | 6838 | R2-1 | 1340 | |
R1-2 | 2162 | R2-2 | 1161 | |
R1-3 | 684 | R2-3 | 1005 | |
R1-4 | 216 | R2-4 | 870 | |
R1-5 | 68 | R2-5 | 754 | |
R1-6 | 22 | R2-6 | 653 | |
R1-7 | 10 | R2-7 | 565 | |
R2-8 | 3652 |
単位:Ω
音質の劣化要因であるアナログスイッチをなくしてみたら?
この電子ボリュームでは若干の音質劣化を感じたと書きましたが、つかっていた部品の問題があるのでしょう。
なんせ、アナログスイッチを2段もつながっているのが一番の問題のような気がします。
JINSONさんのように、リレーを使うというのもよい改善方法でしょう。
それでも厳密な減衰量を得ようとした場合にはバッファーアンプがはいります。
オペアンプ2段程度なら、ほとんど音質変化は気にならないと思いますが、どんなもんでしょう?
いっそのことOPアンプすら無くすとどうなるか考えてみましょう。すなわち下記のようなブロック図になります。
リレー切り替えのアッテネータの2段構成
このとき、すぐに気付く問題としては後段の入力インピーダンスが高くありません。また前段の減衰量によっても、
後段の入力インピーダンスが変わってしまいます。このことは何をいっているかというと、ボリュームの位置に対する減衰量の直線性が悪くなることが容易に推察されます。
すこし定量的にみてみましょう。
たとえば前段・後段とも合計抵抗値が10kΩになるように各抵抗値を選定した場合のボリュームに対する減衰量および減衰率は下図のようになります。
図からも判るように、減衰量が小さい領域(音が大きいところ)になるほと音量変化の直線性が悪いところができます。
これは上図のブロック図を考えれば自明なことです(音量が大きくなると見かけ上では前段の出力インピーダンスが高くなってしまう)。
単調増加性は崩れていませんが、ボリュームを回しても音が大きくならなかったり、あるいは急に大きく(あるいは小さく)なる点があったりするとちょっと嫌ですね。
前段の抵抗値10kΩ、後段の抵抗値10kΩの場合の減衰量特性
では、この直線性を改善するにはどうすればよいか?これは簡単です。後段の抵抗値を高くすれば改善できます。
たとえば、前段の抵抗値を10kΩ、後段を30kΩにしてみましょう。結果は下図のようになります。直線性が改善されており、
この程度ならあまり気にする必要はないでしょう(本当はたぶん上図の場合でも問題ないはずなのですが・・・)。
前段の抵抗値10kΩ、後段の抵抗値30kΩの場合の減衰量特性
いい感じかも!
上記の結果については、抵抗値は計算値(E24系列から選定していない)をそのままつかったこともありますが、
バッファーアンプなしでもスムーズなボリュームを構成できるかもしれません。MUTEを含めても16個のリレーがあれば56分割の音量調整が可能になります。
さらに悪のり?
上記の検討では2段の減衰としていましたが、3段にすればさらに分解能を上げることができる可能性があります。
同じく16個のリレーを使う場合でも(6−1)×5×5=125分割となります。下図の場合では0.75dBステップでMUTEを含め-93dB〜0dBまで可変できます。
ただここまで、ステップを上げると抵抗値の精度を出すために組み合わせが必要になりますし、後段になるほど抵抗値が高くなるのでS/Nの心配もでてきます。
実用的には2段が限界でしょう。
3段構成!
実用とするには?
アッテネータ自体の出力抵抗が高いので、最終段にはアンプは必須になるでしょう。それにリレーをマトリクス的に動かすためにも、少し工夫が必要です。
アンプについてはゲインは不要なのでダイヤモンドバッファーで十分だと思いますが、リレーを上手く動かすためには、やはりマイコンあたりが必要でしょう。
機会があればもう少しつっこんで考えてみるのも面白いかもしれません。
ん? 2006.9.3
ダイヤモンドバッファーでOKだろうか?もうすこし入力抵抗の高いアンプでないと駄目かもしれない・・・
もう少し遊んでみましょう。
いづれにしても上記のアッテネータの構成は内部抵抗の高いアナログスイッチを使うことを前提としていたものですが、
内部抵抗の低いリレーをつかうとなると、下図のような構成も可能です。このメリットは何かというと、音信号が通過する抵抗数が減ることもありますが、
なんといっても抵抗値の計算がとてもし易いんですよね(笑)。
上記のような抵抗を直列にした構成だと、1つの抵抗の値が変われば全体の減衰量に影響を与えてしまいますが、下図の構成だとそのステップの減衰量が
かわるだけです。問題点といえば、駆動する側からみれば、見かけのインピーダンスが減衰量によって変化してしまいますが、
常に変動するわけではないので問題ありません。
すこし回路構成を変えした。こちらも回路的にはスッキリしています。
さて、定数を計算してみましょう。この場合、R1およびR2を決めればR1−*ならびにR2−*は自動的に決まってしまいます。
そして、R1とR2の値によるボリューム位置と減衰量の関係をみてみたいと思います。オーディオ用とするためにはスムーズな
音量変化が得られることが必要です。
定数1 R1=10k、R2=1kΩの場合(本来この組み合わせはありえない)。
案の定、減衰量の小さいところ(音量が大きいところ)で単調性が崩れています。もともとR2側の抵抗をR1側より小さくすることはありえません。
すくなくとも、R2>=R1とすべきでしょう。
R1=10k、R2=1kΩの場合。ボリュームとしての単調性が確保できない。
定数2 R1=10k、R2=10kΩの場合
まあ、これでだいぶましになりましたが、もう一息でしょうか。
R1=10k、R2=10kΩの場合。あと一歩。
定数3 R1=10k、R2=30kΩの場合
これでほとんど直線性が確保できました。目盛りの位置で8あたりで段差がついていますが、
目立つところはここ1カ所ですからソフト的にスキップさせれば問題ないでしょう(ただし、分解度は56→55になります)。
本来はR2の値を大きくすればもっと直線性はよくなりますが、抵抗値を上げることはS/Nの低下につながります。
反対にR1の値を小さくすることは十分可能なのですが、10Ω以下の抵抗が単に手持ちとしてないので-60dBの減衰を
得ようとするとR1は10kΩ以上が必要になります。もっとも1Ω以上であれば容易に手にはいるでしょうか、R1=1kΩとしてもよいかもしれません。
勿論のことですがアンプ側の負荷にも気をつけなければなりません(1kΩ程度の負荷ならまったく問題ないかな?)
R1=10k、R2=30kΩの場合。これで十分でしょう。
具体的に定数を計算してみましょう。
R1=2.2KΩ、R2=9.1kΩとしてみます。これらの値はかなりエイヤです(笑)。
計算した抵抗値をE24系列から導出した値は次のようになります。
計算値(Ω) | 抵抗値E24(Ω) | 計算値(Ω) | 抵抗値E24(Ω) | |||
R1 | 2200 | R2 | 9100 | |||
R1-1 | 1017.44565 | 1000 | R2-1 | 58792.37185 | 56000 | |
R1-2 | 244.4444444 | 240 | R2-2 | 27284.60339 | 27000 | |
R1-3 | 71.84195047 | 68 | R2-3 | 16854.14507 | 18000 | |
R1-4 | 22.22222222 | 22 | R2-4 | 11692.45888 | 12000 | |
R1-5 | 6.979080643 | 6.8 | R2-5 | 8637.668562 | 9100 | |
R1-6 | 2.202202202 | 2.2 | R2-6 | 6635.682136 | 6800 | |
R2-7 | 5234.639451 | 5100 |
そして、E24系列から選んだ抵抗値を用いた場合の、減衰量と1ステップあたりの減衰率は下図のようになります。
まあそこそこの精度は出ているように思われます。減衰率も平均値として-1.25dBの計算値となっているようです。
もちろん、目盛り8の位置で不連続(というより音量が変化しないところ)があるので、この部分はスキップさせた方が音のつながりはスムーズでしょう。
減衰量と1ステップあたりの減衰率
しかし、こういったことを考えているとPGA2310あたりの凄さがわかってきます。0.5dB毎での調整ができるだけでなく、
ゲインエラーが0.05dBですから内部の抵抗値の調整はレーザトリミングなどがされていると思います。
精度を出すには市販のICを選択するのが賢い選択でしょうね。
もうちょっと頭の体操
電子ボリュームとしてなめらかと思えるステップはどのくらいか試してみると、1.5dBではその違いが判ってしまいます。
ということは、上記の検討での1.25dBというのは粗いと思われます。考えようによっては、明確に音量が変わるほうが、
ステップ式のボリュームとしての存在感がでるかもしれませんが、やはり希望する音量に調整出来なければかなりストレスが溜まる可能性があります。
(とくに小さい音量が欲しい時は顕著なんですが・・・・この音量なら聞こえてしまうけど、これより絞ると聞こえなくなっちゃう、という状況ですね(^^;)
世の中の電子ボリュームのステップが0.5dBであることを考えると、この程度の分解能は欲しいところです。
ということで、もう少し構成について頭の体操をしてみました。ということで、こんな感じであれば0.5dB分解能が実現できそうです。
ちょうど、後段のアッテネータのところを抜き出しています。素子自体は1つだけ増えているだけです。
頭の体操のためのアッテーネータ構成
基本的には減衰率-0.5〜-4.0dB(0.5dB毎)だけの素子を構成します。
そして、この組み合わせで減衰率-0.5dB〜-9.5dBまでを構成します。
実際のE24系列を抵抗値とON/OFFのリレーの組み合わせで計算した実減衰量と誤差は次の様になります。
0.5dBステップでゲインエラーは1カ所で0.12dBとなっていますが、それ以外ではほぼ0.05dB以下です(PGA2310並です)。
表. ”1”とあるところがリレーがONする場所。
R2 | R2-1 | R2-2 | R2-3 | R2-4 | R2-5 | R2-6 | R2-7 | R2-8 | |||
9100 | 150000 | 75000 | 47000 | 36000 | 27000 | 22000 | 18000 | 15000 | |||
目標減衰量 | 実減衰量(dB) | 誤差(dB) | RY2-1 | RY2-2 | RY2-3 | RY2-4 | RY2-5 | RY2-6 | RY2-7 | RY2-8 | |
-0.5 | -0.51 | -0.01 | 1 | ||||||||
-1.0 | -0.99 | 0.01 | 1 | ||||||||
-1.5 | -1.54 | -0.04 | 1 | ||||||||
-2.0 | -1.96 | 0.04 | 1 | ||||||||
-2.5 | -2.52 | -0.02 | 1 | ||||||||
-3.0 | -3.01 | -0.01 | 1 | ||||||||
-3.5 | -3.55 | -0.05 | 1 | ||||||||
-4.0 | -4.12 | -0.12 | 1 | ||||||||
-4.5 | -4.44 | 0.06 | 1 | 1 | |||||||
-5.0 | -5.05 | -0.05 | 1 | 1 | 1 | ||||||
-5.5 | -5.49 | 0.01 | 1 | 1 | 1 | 1 | |||||
-6.0 | -5.94 | 0.06 | 1 | 1 | 1 | 1 | |||||
-6.5 | -6.49 | 0.01 | 1 | 1 | |||||||
-7.0 | -6.99 | 0.01 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||||
-7.5 | -7.48 | 0.02 | 1 | 1 | 1 | ||||||
-8.0 | -8.05 | -0.05 | 1 | 1 | 1 | ||||||
-8.5 | -8.46 | 0.04 | 1 | 1 | 1 | 1 | |||||
-9.0 | -9.06 | -0.06 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||||
-9.5 | -9.50 | 0.00 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
これと前段のアッテネータとの組み合わせでゲインエラーが小さければ、実用上は十分な電子ボリュームが構築できそうです。
ただし、これだけ複雑にリレーを制御するとなるとマイコンあるいはルックアップテーブル用のROMなどがいりますね。
やっぱりマイコン使用は不可避かな〜?
最終的な構成と特性
最終的な電子ボリュームのアッテネート部分の構成は下図のようになりました。
たぶん最終的な構成だと思う。
抵抗値の値は下表の通り。使用するリレーはMUTEを含めて15個になります。
抵抗値Ω | 抵抗値Ω | |||
R1 | 2200 | R2 | 9100 | |
R1-1 | 1000 | R2-1 | 150000 | |
R1-2 | 240 | R2-2 | 75000 | |
R1-3 | 68 | R2-3 | 47000 | |
R1-4 | 22 | R2-3 | 36000 | |
R1-5 | 6.8 | R2-4 | 27000 | |
R1-6 | 2.2 | R2-5 | 22000 | |
R2-6 | 18000 | |||
R2-7 | 15000 |
肝心の減衰量ならびに減衰率は下図のようになりました。1点だけ連続性が保てていないところと2点ほど減衰率が小さい部分がありますが、
ここはスキップさせればいいでしょう。
リレー15個の組み合わせで0.5dB毎で約140ステップの電子ボリュームのコアの部分のできあがりです。
結構頭の体操になりました。
減衰量と1ステップあたりの減衰率
いや〜
まずはハムさんのHPでトリガーを受け、さらに片瀬さんやJINSONさんのHPに刺激を受けて、電子ボリュームなるものを再考してみましたが、結構面白かったです。
意外と高分解能なものが、少ない素子(抵抗)で組めそうな感じです。問題はその制御(byマイコン)ですが、これについてもおいおい考えてみましょう。
頭の体操、その3です(笑)。
(つづく?)