ちょっとTea Time!?  ラッシュカレント対策を1次側で検討する、の巻き。 2022.9.9

ラッシュカレントの憂鬱

パワーアンプの出力は家で使う分には10Wもあれば十分なのですが、
自作屋の性としてデカいトランスに大容量のコンデンサをつい使ってみたくなります。
とくに大きなトランスは巻き線抵抗が低いですから、電流がたくさん流せるのですが、
電源ON時の突入電流は半端ではありません。

 例えばRSで取り扱っているトロイダルトランスで1KVAともなると、40V出力のもので
巻き線抵抗は0.0677Ωです。コンデンサの直流抵抗を無視してざっと計算すると、
整流ダイオードに流れる突入電流は最大で40X1.4/0.0677=827Aに達してしまいます。

まあ、この計算はかなりおおざっぱですが、コンデンサの直流抵抗などを考えても
おそらくは400A程度にはなると思います。となると、大容量のダイオードブリッジを使っても
容易に破壊してしまいそうです。


RSで取り扱っているトランスで1kVAのものとなると、巻き線抵抗は0.1Ωを軽く下回ってきます。

ラッシュカレントの問題は整流トランスだけではありません。 電源スイッチ容量も、
定常時に流れる電流よりもはるかに大きな定格のものをつかわなければなりません。
でないと、スイッチのON時の過電流で接点が焼き付いてしまいます。
またFUSEも問題です。 本来は1Aもあれば十分なところですが、ラッシュカレントにも溶断
しないようにするには5A〜10A程度のものをつかわざるをえないことになります。
となると、いざというときに溶断してくれるか心配です。なんといっても火災が一番怖いです。


ラッシュカレント対策として

以前に高精度アンプを検討したときに200VAのトランスをつかったので、ラッシュカレント対策
として、2次側出力には抵抗を入れておいて、時間が経てばリレーで短絡させるような回路
を使いました。
www.easyaudiokit.com/bekkan/NewAmp/NewAmp.html


ラッシュカレント対策のための抵抗とリレーです。

この方法ではセンタータップ付きのトランスを使う場合には正負側の2回路分が必要です。
2回路分だけならまだいいのですが、複数のトランスをつかった場合や、さらにプリ部にも
大容量のトランスをつかう場合など、それぞれのダイオードブリッジの後に抑制回路を設ける
必要があります。それだけでも作る手間が大変です。

1次側で対策を考えてみよう!
 いままではダイオードブリッジのラッシュカレント対策に着目してトランスの2次側に抑制回路
を設けていましたが、考えてみれば1次側に抑制回路がとりつけられば、トランスが複数あっても
必要な回路は1つで済みます。これはいいかもしれません。

ということで、今回はトランスの1次側にラッシュカレント抑制を設けた場合の挙動について
すこし調べてみました。 ちょうどTea Timeの課題としていい感じです。

ラッシュカレントの導出は

ラッシュカレントを正確に測定しようと思えば、電流検出抵抗を挟み込んでその両端電圧を
測定すればいいのですが、それに適した低抵抗(0.1Ω以下)が手持ちにありません。それに
その抵抗値自体で測定結果に影響を与えそうなので、今回は電圧から電流を推定することに
しました。 まあ、単純に手を抜きたかっただけの話ですが・・(笑。

 方法はいたって簡単です。コンデンサの電圧の立ち上がり時間から電流を換算します。
高校の物理みたいなものですが、コンデンサの両端の電圧は流れる電流の積分ですから
それを微分すれば電流値が逆算できます。

ここで
 V : コンデンサの電圧(V)
  : コンデンサの容量(F)
  : コンデンサに流れる電流(A)

実際の回路を測定するまえに、一応検証です。
実験用電源があり、電流は貧弱で最大で1.058Aまでしか流れません。
反対に言えば、1.058Aの定電流電源として使えるということです。
この電源にコンデンサを接続して検証です。


実験用の電源は1.058Aが最大ですが、定電流での駆動も可能です。


検証用に4700uFのコンデンサを使いました。

4700uFのコンデンサに電源を接続して、その電圧の上昇状況を観測です。
こういったときにディジタルオシロは便利ですね〜。久しぶりにつかいました(笑。

測定結果は下図のように、およそ18Vの電圧まで駆け上がのに80msの時間がかかりました。
ということで、電流を計算すると

 i = 4700uF × 18V / 80ms = 0.0047 × 18 / 0.08 = 1.057 (A)

となります。実験用電源の電流値とドンピシャですね。


電圧の立ち上がり速度は18Vを80msですね。

実際の回路を測定してみましょう!

測定につかった電源トランスは300VAのものです(115V入力、50V×2)。 巻き線の抵抗値は実測で0.63Ωでしたので、
ラッシュカレントは最大でも95A程度なので、ちょっと大き目のダイオードブリッジをつかえば大丈夫なのですが、
スイッチやFUSEのことを考えて、すこしでも下げることを目指しましょう。

コンデンサは片側に4700uF×2+3300uF=12700uFをとりつけています。

1)1次側はそのまま(抵抗なし)

まずは、単純に抵抗をいれずに測定です。
この状態で電源を投入すると、一瞬ですが手元の電灯が暗くなったりします。
ただ、1次側の抵抗がないためか電圧の立ち上がりも早くて200mSでほぼ定常値の60Vに達しています。

そして肝心の電源投入直後の電圧の立ち上がりですが、概算で3000V/sとなりました。
接線は目分量なので多少の誤差はでるのはご愛敬です。

で、この結果からラッシュカレントは

I=12700uF × 3000 = 0.0127 × 3000 = 38A

です。トランスの巻き線巻抵抗からの推定(98A)からはかなり低いですが、コンデンサの直流抵抗などを
考えると、まあこんなもんでしょう(もっと接線の傾きが大きかもですね)


まずは1次側に何もしないで電圧を測定です。


1次側に何もしない状態です。 電圧は60Vまで約200ms程度で達します。



肝心の電圧の立ち上がりは最大で3000V/sとなりました。


2)1次側に150Ωを接続

こんどはAC100Vラインに150Ωの抵抗をいれました。なぜ150Ωかといえば、単に部品箱にあっただけの話です(汗。
このときの電源投入時の電圧の立ち上がりは約50V/sでした。

ラッシュカレントは

I=12700uF × 50 = 0.0127 × 50 = 0.64 A

ここまで低いとラッシュカレントは考える必要はありませんが、電源の立ち上がりがすこし遅すぎますね。
電源投入から定常値になるまで10秒を超えてしまいます。


次はACラインに150Ωの抵抗を入れました。


電圧の立ち上がりは流石に遅いです。定常値(60V)なるのに12秒以上はかかりそうです。


電圧の立ち上がりは最大でも50V/s程度です。


3)1次側に5.6Ωで試してみましょう

次は5.6Ωとしてみました。なぜ、5.6Ωか・・・・・。単に共立で安く(10円)で売っていたので、たくさんあるだけです(笑。
このときの電圧の立ち上がりは、意外と早いですね〜 約1350V/sでした。 抵抗が何もないときの半分くらいです。

ラッシュカレントは

I=12700uF × 1350 = 0.0127 × 1350 = 17 A

です。ちなみにトランスの1次側の巻き線抵抗は7.3Ωでした。
もうちょっと大きな抵抗で試してみましょう。


次は5.6Ωにしてみました。


電圧の立ち上がりも早いです。1秒ほどで60Vまで立ち上がります。



電圧の立ち上がりは最大で1350V/s程度です。

4)最後に適当に30Ωで

適当な抵抗値のものがなかったので150Ωの抵抗を5個並列につないで30Ωでテストです。
このときの電圧の立ち上がりは、約260V/sでした。

ラッシュカレントは

I=12700uF × 260 = 0.0127 × 260 = 3.3A

です。これならばラッシュカレントもまったく気にする必要ないですね。
ただ、電圧の立ち上がり速度に3秒程度かかるのはすこし遅いかなあ〜。
もうちょっと低くてもいいかもですね。


苦肉の策で30Ωを用意しました。


定常電圧の立ち上がりは大体3秒程度です。まだ許せるかな〜。


立ち上がり速度は約260V/sです。

まとめ

今回はトランス1次側に抵抗を入れることでのラッシュカレントの挙動を調べてみました。

使用トランス : 300VA、115V入力、50×2出力 (1次側巻き線抵抗7.3Ω、2次側 0.63×2Ω)
コンデンサ  : 片側12700uF(全25400uF)

一次側の抵抗値 最大ラッシュカレント 定常値になるまでの時間 評価
なし(0Ω) 38A 約 0.2 秒 ラッシュカレント憂慮
5.6Ω 17A 約 1 秒 ラッシュカレントすこし憂慮
30Ω 3.3A 約 3 秒 ぎりぎり我慢
150Ω 0.64A  12秒以上 ちょっと定常までが長すぎ

という結果になりました。このトランスを使うなら大体30Ω弱程度だから22Ωのものをつかえば
いい感じでつかえそうかもしれません。
とりあえず、1次側に抵抗を入れるのでも大丈夫そうなことが確認できたことは収穫です。

(おしまい)