ちょっとTea Time!? 高電圧アンプ(LTC6090)を試してみる〜。あ、大失敗の巻き! 2022.9.3

高電圧といっても高々50V程度ですが、オーディオアンプとしては高いほうだと思います。
8Ω負荷なら最大で156W. 4Ω負荷なら315Wまで出すことができます。
もっとも、野外のPAのような環境でなければこんなアンプは不要です。家の中なら10Wもあれば十分です。
オーディオアンプ用途というよりは、色々な実験のことを考えて、このくらいの出力までだせるアンプがあればなあ〜
ということで、検討してみることにしました。

電源は?
 高電圧のアンプを作るには高電圧の電源が必要です。簡単なのはスイッチング電源をつかえばいいですが、
市販のものだと電圧は48V程度のものが最大のようです。50Vの出力を得ようとしたら、電圧は60V以上は欲しい
ところです。で、ここはオーソドックスにトランスをつかうことにしました。
でも、トランスで電源とつくるときに気をつけなければいけないのは電圧が高くなると
とたんに電解コンデンサの選択肢が狭まってくることです.だいたい耐圧63Vを超えると、大容量なものがほとんどなく、
また高価です。ということで、トランスをつかって、ぎりぎり60V程度になるように狙うことにします。

選んだトランスはRSコンポ―ネンツのもので50V×2の巻き線のものです。

RSのトランスは入力が115V仕様なので、日本のAC100Vで使うと出力は約86%になります。
そして、ダイオードブリッジでの電圧降下1.2Vを考えて、整流後の出力電圧は、計算では

出力電圧E = ((50V ×  0.86) - 1.2 ) x 1.41 = 58.9V

になるはずです。ちょうど60V程度になるはずで、耐圧63Vのコンデンサが使えます。
ということで、購入して実験です。


結構でかいなあ〜。



トランスの仕様です。


平滑コンデンサは共立でたまたま80Vの大容量のものがあったので、買ってきました。
テストの段階で63Vのコンデンサの使用は怖かったです.


ブリッジとコンデンサをとりつけて電圧の計測です。

ぎりぎりだあ〜

さっそく通電して、電圧測定です。ちなみに家のコンセントの電圧はAC101Vでした。
で、肝心の測定結果ですがほぼ63Vになってしまいました。推測から4V高いです。
これって耐圧63Vのコンデンサ使っても大丈夫かなあ〜。一応定格内だから大丈夫なような気もするけれど・・・・。


正側は62.9Vです。


負側は−63.0Vです。


とりあえずは、この電圧で実験を進めていきましょう!

LTC6090を使ってみる!
 さて高電圧アンプですが回路は結構悩みます。
素直に組むならすべてディスクリートにすればいいのですが、耐圧が120Vを超えるものが必要なので選定など結構面倒なものがあります。
それにディスクリートで組めばオフセット調整など細かいことを考える必要があります。
そのため低オフセットなOPアンプがつかえれば、簡単です。
そこで、LTC6090なる高電圧で使えるOPアンプがあるので、初物ですがこれを使ってみることにしました。
この素子は最大±70Vでつかえて、スリューレイトも21V/usと高速なOPアンプです。されにRail to RailでCMOSです.

LTC6090は裏面は放熱パッドになっているので、変換基板にはあ裏返してとりつけて、
放熱パッドには銅箔を半田付けして放熱できるようにしました.


結構心躍る仕様が並びます.



初物ですがLTC6090を使ってみることに.


裏面に放熱パッドがあるので、裏返して変換基板にとりつけです.


放熱を促進するために銅箔テープを取り付けいます.

まずは±15Vでテスト

最初なので、まずは普通のOPアンプと同様に±15Vでテストです.ゲイン11倍にセットして
入出力波形を観測です.


ブレッドボード上でまずは簡単に動作テストです.


ちゃんと動いていますね.(下:入力(1V/div)、上:出力(5V/div))

さっそく電力ブースターを取り付け!

LTC6090の動作が確認できたので、さっそく高電圧で動作させます. 
もういきなり電力ブースターも取り付けです. 2SC5200/A1943を使いますが、
相当に発熱することが予想されるので、大き目の放熱板に取り付けです.
あらかじめM3のネジがあいているところがあるので、そこにトランジスタを取り付けたので
位置はバラバラです.
 その他の部品はほぼ空中配線です(笑.

ついでに負荷用の抵抗も取り付けです. こちらも相当に発熱するので放熱板に取り付けています.

空中配線ですがLTC6090にブースターを取り付けてみました.



ついでに負荷抵抗器も取り付けです.こちらも、放熱板にネジ止めしています.

いざ動作確認! あれ?

さて、配線も終わったので、最初に作った電源と併せて動作テストです.
最初から振幅50Vでフル動作です. で、問題なく出力波形がえられました.
最初は1kHz程度から始めたて、.どこまでの高周波数まで出力が得られるかをテスト
してみましたが、なんと13kHz程度までは綺麗な波形でしたが、それ以上にあげると
波形は歪だすではありませんか!


振幅50Vだと13kHzまでは波形は綺麗でした.


振幅50Vで15kHzだと、波形に歪が生じてきます.

色々と回路定数を弄っても、ほとんど改善しません.
出力電圧を落としてみれば波形は綺麗になりました.
振幅30Vまで落とせば20kHzでも綺麗になりましたが、それじゃあ意味がありません.


振幅30Vまで落とすと20kHzでも綺麗な出力が得られますが、
これでは意味がないなあ〜.

回路が悪いのかな?

何が悪かったのか、よくわかりません.
で、LTSPICEにLTC6090のライブラリもあったのでSPICEをかけてみました.
でわかったことですが、SPICE上においても高周波数の領域においては
歪が発生してしまいます.
 スリューレイトが21V/usなので、50V振幅だったら60kHz程度までは
綺麗に再生できるはずなのですが,ちょっと違ったようです.
わかったことはスリューレイトは信号の立ち上がり速度であって、スムーズに
上がることを保証したものではないということのようです. 現に波形が歪んでしまっても、
振幅自体は50Vを保持しています.


手っ取り早く、LT6090のみでSPICEをかけてみました.



1kHzであれば、綺麗な正弦波が得られます.


30kHzにあげると、歪が顕著です. でも振幅は50Vあるので、スリューレイトの偽りということではありません.

同じことで悩んでいる人はいないかな?

ひょっとして、同じような現象で悩んでいる人はいないかと、ネットで検索してみました.
LTC6090をつかった事例は少ないのですが、おなじく高振幅領域での歪が問題になっているHPがありました.

オペアンプLTC6090の特性を確認する   EL34/6CA7 3結 プッシュプルアンプ: 金沢電気電子工房 (cocolog-nifty.com)

で、このHPにもコメントがありましたが、歪率のグラフをみればわかるように、10kHzを超えたあたりから
急激に歪率が悪化することを理解すべきだったということのようです.



ということで、高電圧アンプにLTC6090を使ってみる算段は見事に失敗です.

まとめ

 LTC6090をつかってみました.±70Vまで使えるOPアンプですが、出力振幅が大きくなると
とたんに歪が発生します. 20kHz以下でのオーディオ領域でも問題になる場合があります.

所感
今回の検討はちょっと失敗に終わってしまいました.あ〜、このICって結構高いんだよな〜.
電源装置にでも使ってみましょう.


リベンジ! 2022.9.4

このままじゃあ、終われないのでPA-A2基板の回路定数を見直して、高電圧対応にしてみました。
変更後の回路がこれです。


PA-A2基板が使えるようにして、回路定数を見直しました。過電流保護回路は実装していません。

初段ならびに電圧増幅段のトランジスタは2SC1775A/A872Aを使いました。耐圧120Vなので、電圧増幅段では定格一杯です。
電力増幅段の1段目は、なんだろう?古いアンプをばらしたときに出てきた2SC3298/A1306が取ってあったのでそれをつかいました。
耐圧200Vなので余裕あります。 そして2段目は2SC5200/A1943です。こちらは230V/15Aなのでまだまだ余裕です。

PA-A2では初段のトランジスタは定電流で動くようにFETの定電流回路を入れていましたが、FETで高耐圧のものが手元になかったので、
単純に抵抗だけで済ませました。

回路定数を変更にしていますが、一部抵抗を省略したところはジャンパーに、そして抵抗を追加したところはパターンを切って修正しています。
まあ、一からつくることを考えるとベースの基板があるので、随分と楽です。

動かしてみましょう!
基板ができたので、無理やり終段のトランジスタを取り付けて電源を投入です。

 
こんな形でとりあえず作ってみました。


10kHzでの出力波形です。綺麗です。振幅50Vでています。


50kHzでも大丈夫ですね。

しばらく動かしていたら、負荷抵抗がかなり熱くなってきました。
放熱板には取り付けていますが、グリスの塗が甘かったかな?

まあ、まずはこれでよしとしましょう。

やはり高電圧アンプは最初からディスクリートで組むべきだったかもです。

(おしまい)