インテリジェントなMUTE回路を検討する!の巻き 2011.6.5
MUTE回路はアンプの電源ON/OFF時のポップノイズや電子回路の過渡応答時の信号の漏れを抑制するためのもので、
無くても音質には関係ありませんが、無いと精神的に落ち着かないものがあります。
(ひどいポップノイズだとスピーカが壊れるかと思うほどコーン紙が動いたり、爆音がでる場合がある)。
以前はチャンデバのフィルタにMUTE回路を付けなかったこともあり、パワーアンプの電源ON後にチャンデバの電源を
入れようものなら、スピーカ(とくにツーイター)が壊れるかと思うほどの巨大音量がでました。
今まで採用していたMUTE回路
いままで使っているMUTE回路は下図のようなものです。トランスの巻き線にダイレクトに接続して使用
することを前提としています。
機能的には電源ON時にはコンデンサ(C2)のチャージ時の電圧上昇をコンパレータ(IC1)で判別して
一定時間後にリレーを入れます。電源OFF時は回路内のチャージ(C1、C2)をリレーそのもので
消費させてやって、素早くリレーOFFにするものです。難しいのがC1の容量選定で、大きすぎると
OFF時の応答が悪くなりますし、小さいとリップルが残ってリレーばビビッてしまいます。
しかしC1の容量をうまく選んでやれば、割とシンプルな回路ですが的確な動作をするので
案外気に入った回路の一つです。
いままで採用しているMUTE回路。比較的シンプルだと思いながらも部品点数は結構ある。
何が不満か?
いまの回路の何を改善しようかと考えているかといえば、まず現在のMUTE回路はトランスから電源を
直接とりだしてきているので、交流電源をケース内に引き回さないといけないため、少々ノイズの面で
気をつかうこと。それと、やはり整流回路まで内蔵しているので部品点数も多く実装面積や
製作時間がかかること。
そこで、整流後の回路に接続して使用できる、さらに部品点数の少ない回路を頭の体操として
考えて見よう!というのが今回の主旨です。
今までのMUTE回路の取り付け位置をより下流側に移動できるかを考えて見ましょう。
新しい回路は・・・
新しい回路は、PICをタイマーとして使うことで簡素化できないかと考えています。
ちょうど下図のような回路です。3端子レギュレータの7812はリレー用のレギュレータですが、
PICに5Vを供給する78L05の最大入力電圧が20Vということもあり、途中で7812を入れることで
高入力電圧(V+)への対応も兼ねています。
この回路にすれば、78L05は新たに追加になりますが、整流回路が不要で抵抗の数も2本
で済みます。
考えてみた回路図。整流回路や電解コンデンサ、抵抗も少なくなってスッキリ。
制御シーケンスは
制御シーケンスは電源投入後に3秒程度待ったのちにリレーを入れます。そしてそのときの
電圧(Vref)をADで読み込んで、電源電圧が一定値以下(Vref×α)になれば、MUTEリレーを
OFFにする、というのが基本的な考えになります。
このときのαの値は外部ジャンパーで0.7〜0.95程度で選べるようにすればいいでしょう。
この回路を定電圧電源に接続するならα=0.95程度でいいでしょうし、非安定の平滑回路
に接続するなら0.8程度でよいと思われます。
ただし、問題点が・・・・
MUTE回路は電源OFF時に素早く切れることが肝要ですが、それ以外で切れて貰っては困ります。
とくにパワーアンプなどでは出力が大きくなると電源電圧が低下してしまいます。それで誤動作しては
困ります。かといってMUTE回路を切るためのαの値を小さくしすぎると、こんどは通常時(負荷が軽いとき)
に電源OFFしてもなかなか切れないことになります。とくに大容量のコンデンサをつかった場合は
MUTE回路がOFFになるまでの時間がかかることになります(電圧が残っているということは、
ポップノイズが出る状態ではないので問題ないといえば、無いのですが・・・・)
こんな時(消費電力増えて電圧が下がった場合)にも誤動作しない設定が必要。
インテリジェントなる所以は・・・・
今回の検討の最大の狙いは、平滑後の電源監視だけで、いかにスムーズなMUTE回路(制御シーケンス)
が実現できるか?というところにあります。そのためPICには単なるタイマーだけでない少し賢い機能を付加する必要があります。
それゆえ、タイトルに”インテリジェント”といれてみました。
電源OFFを判定する条件は?
次のように定義してみましょう。
「電源電圧が初期電圧に比べて一定以下に低下。ただしリップルは無いこと」
とすれはどうでしょう?まあ、一度具体的なハードとソフトを組んでみる必要がありそうです。
なるほど! 2011.6.8
こんなメールをいただきました。
>可能なら出力のDC成分をモニターして,DC分があるとリレーを切れると便利かもしれません.
なるほど。折角なのでスピーカのミュート回路用としてこんな機能があると便利ですね。
さて、ここで問題になってくるのがPICのAD回路は0〜5V入力であるということです。
DC成分は正もあれば負もあります。ということで、入力電圧をVcc/2程度につり上げる必要がありそうです。
こんな回路でどうでしょう?(抵抗値はもう少し上げたようがいいですが、基本的な考え方です)。
外部の入力に+2.5Vのオフセットを加える回路。
入力信号がないときは2.5Vになります。
この回路で5V振幅(10Vpp)の入力があると1.25V程度の振幅が得られます。
5V振幅入力時には1.25Vの入力振幅が得られます。
さらに大きな振幅として20Vの振幅(40Vpp)になるとダイオードでクリップされるので
-0.6V〜5.6V程度に収まるので、PICは守られそうです。
大きな振幅が入ると(図の例は20V)とクリックしてAD回路を保護。
DC漏れってって1Vくらいを検出すればいいのかな?1Vだと4Ωスピーカでは250mAの電流が流れて
0.25Wの電力消費なのでスピーカとしては問題ない範囲なので、このくらいを目処に設定できるように
すればいいでしょう。
PICで演算するので低周波数でのフィルタは割と楽だったりします。
反対にアナログ回路でやるとまともにフィルタ回路を組まないといけないので大変だったりするかもです。
ところで、ちまたのDC漏れ検出回路ってどうなっているのだろう?
ちっと調べてみましょう。調べているとLUXMAN 5M21の仕様
ラックスマン では3Vを漏れの基準に
しているようですね。もう少し高い値でもいいかな?調べていると
EMISUKEさんのところでもマイコン入力の保護回路を検討されていたようです。 → http://www.geocities.jp/aaa84250/V_POW.htm
でも、ちょっと違うのはバイポーラの電コンと抵抗でフィルターを構成して、2個のトランジスタで正負0.6Vを越えると
ONになる回路を使われているようです。
ちょっと引用させてもらいました。
REF:http://www.geocities.jp/aaa84250/V_POW.htm
でも、ここでは極力部品点数を少なくするために、
フィルターはマイコンの内部演算で行ってみたいと思います(変なこだわりです(笑))。
ん〜なかなかアナログ回路でヒットしないな〜。まあ、見つかったときに掲載することにしましょう。
どのくらいのリップルがでるんだろう? 2011.6.18
ところで負荷をかけていったときに、出力電圧が下がるの同時にどのくらいのリップルが発生するのかな?
一度シミュレーションしてみましょう。
回路は下図のような簡単なものです。トランスは出力20V(AC)として巻線抵抗は1Ωあるいは2Ωと仮定。
そして平滑コンデンサは4700,22000uFの2通り。
この設定で負荷抵抗を変化させた場合の出力電圧とリップル電圧(波高値)を調べます。
シミュレーションの回路。 リップルの様子。
まずは電圧から。負荷がかかると電圧は低下します。平滑コンデンサの容量が大きいほど低下電圧は小さくなりますが、
あまり変わらないような感じです。負荷抵抗20Ω時おおよそ10〜20%程度の低下です。
負荷抵抗による出力電圧の低下
つぎはリップルの結果です。こちらは平滑コンデンサの容量に大きく依存します。
当然のことながら容量が大きい方がリップル電圧は小さくなります。22000uFにすると
負荷抵抗20Ω時で200mV程度と小さいリップルです。どうやって検出しましょう?
リップルの検出方法は?
最初は電圧全体をモニターしつつ、変動分(リップル)を同時に検出しようとおもいましたが
おもった以上にリップルが小さいようです。
たとえば、電源電圧50Vまでモニターしようとすれば、まずは最初に1/10に分圧しなければなりません。
これはPICの入力電圧が電源電圧(5V)に依存するためです。
そうすると、リップル値は200mV/10=20mVになります。PICのAD変換分解能は10Bit(PIC16F)ですから
5mVの分解能です。20mVだとちょうど4分解できる程度ですのでノイズを考えるとちょっと厳しいかもしれません。
でも、やってやれないことはないかも・・・・と思いますが素直にリップルだけの検出回路も追加したほうが
良さそうです。
最終的な回路はこんな感じでしょう。
部品を簡略化するために抵抗は20kΩのチップ抵抗14個のみで構成します。
そしてコンデンサも0.1uFのチップ抵抗4個のみで構成します。
電解コンデンサは一切使用せずです。ダイオードは7本必要ですが500本入り500円で買ってあるので
大量消費でも気になりません。
回路図はこんな感じ。
使用するPICはピン数としては8PのPIC12F675でも足りますが、モード設定がいろいろとできると
便利なので18pのPIC16F819あたりをつかえばいいでしょう。
これでもいいけどちょっと足が少ない。 このくらいの足があるといろいろと出来ます。
テスト開始! 2011.6.20
まずはDC漏れ検出部から。抵抗は20kΩが数少なかったので18kΩでテストです。
マイコンは28PinのPIC16F886を使いました。液晶かなにか表示器を繋がないと、内部の状態が全くモニタリング
できないので、まずは足の多いICをセレクトです。
液晶を繋いでテストの様子。左下に見える抵抗とコンデンサがスピーカのDC漏れ用検出用の
ディスクリート素子です。
テストには波形を入力する必要がありますので発振器を準備接続します。以前につくったDDSを用いた
発振器です。DC漏れ検出のテストをするためには発振信号にオフセットをかける必要があるので、
そのための改造をしました。正成分だけですが0〜5Vのオフセットをかけられるようにしています。
このオフセットは12BitのD/Aで生成させているのでおよそ1mVの分解能で設定できます。
発振器を接続して出力のテストです。
DC漏れの検出は単純で入力の時間平均値を監視するだけです。時定数は1秒くらいに設定すれば
いいでしょう。ただし、1秒ごとに平均をとったのでは急なDC漏れに対して検出遅れがでるので、
数10mSで反応するようにはする必要があります。
さて、DC漏れ(オフセット電圧)とPICで計測したAD平均値はこんな感じです。
あたりまえのことですが、リニアな関係になりますね。
オフセット電圧(V) DC漏れ電圧 |
PIC AD平均値 |
0 | 510 |
0.5 | 535 |
1.0 | 561 |
1.5 | 586 |
2.0 | 611 |
2.5 | 637 |
3.0 | 662 |
オフセット電圧とAD平均値の関係。
これはこれでOKでしょう。
次はリップル検出回路です。
ひさしぶりの作業再開。 2011.6.29
リップル入力回路で気になるところは入力のカップリングコンデンサの容量です。
リップル波形は比較的周波数も低いので0.1uF程度で足りるか検討してみましょう。
リップル回路の入力コンデンサ容量のチェック。
入力波形はリップを模擬して100Hzの三角波を入力しました。
そしてカップリングコンデンサを通した後の波形をみてみましたが
c=0.1uFでは少し波形がなまり過ぎています。c=0.3uF程度であればよさそうです。
ということで0.1uFのコンデンサを3〜4個並列に出来るようにパターンを設定しておけば良さそうです。
入力波形 カップリングc=0.1uF(波形がかなり鈍る) カップリングc=0.3uF(この位は必要)
そろそろパターンを描いていきましょう
こんな感じかな? 2011.7.3
なんかMUTING回路っぽく全然ないです(笑)。
もう一つは、プリなどを想定したミューティング回路。リップル検知は抜いています。
もちろんスピーカのオフセット検知もありません。PICは8Pのものでも十分ですが、
同じ種類で統一です。
さらに汎用のリレーを複数個登載できるようなパターンを描いてみました。MUTE基板3兄弟です。 2011.7.10
これらで一度試作してみましょう。
IMUTE-A基板。スピーカMUTE用です。DC漏れ検知も可能な複合機能タイプです。
IMUTE-B基板。小型のMUTE基板 IMUTE-C基板。汎用タイプです。
基板到着 2011.7.26
アイソレートUSBと同じ基板から分離しました。こちらもIMITE-A〜Cが3枚連続でミシン穴でつながっています。
これらを切り離して、端面を#100の紙ヤスリで軽く整形しておきました。
IMUTE-A〜Cの3枚つづりです。
それぞれ切り離して端面を整形
まずは基本回路のIMUTE-Bをくみててました。
部品点数はほんとうに少ないのであっという間に組み上がります。
それにしても小さいな〜。
完成してIMUTE-B基板
回路はこんな感じです。とてもシンプル、というかこれだけだとMUTE回路かなにかわかりませんよね。
ソフトを組まないと単なる部品取り基板って感じです。
IMUTE-B基板の回路図
ソフトを作ってみる 2011.7.30
まずはIMUTE-B,C用のソフト製作です。これは、電源監視だけなのでソフトはスッキリかけます。
選択可能な機能は
MUTE−OFF時間: 1.5秒 あるいは 3秒
MUTE-ON条件 : 電圧降下−5% あるいは −15% (MUTE−OFF時の電圧基準)
復帰可否 : 選択可(電源OFF後にすぐに再ONされた場合に復帰するかどうか)
を設定できるようにしています。
ソフトの動作確認には電源電圧が変えられると便利なので、
可変電圧電源に接続しています。
動作チェック中!
IMUTE基板の基本の入力は直流電源からになりますが、トランスからの出力を直接的に
入力することも可能にしています。このような接続にした場合には、電源OFF時に速やかに
MUTEリレーをOFFにすることができます。
トランス巻き線の直接入力をテスト中。
IMUTE-A基板をテストする!
最後は、この基板をテストです。まずは問題なくリレーが動作することを確認しました。
IMUTE-A基板をテストしています。
IMUTE-A基板の回路図はこんな感じ。少し部品点数が多いのですが、Rについてはほとんど同じ値に
しているので部品の種類はきわめて少ないです。
2個のリレーを駆動すると電流値は0.1A程度になるので、12Vのレギュレータには放熱板があった方がよいでしょう。
IMUTE-A基板の回路図
一通り動作確認完了! 2011.8.2
MUTE回路は好みで定数を変化させる場合もあるでしょうか、
ソースとバイナリーも公開しましょう。
バグを指摘してもらえるかもしれないですしね(笑)。
しかし、人のプログラムって読めない物なんですよね〜。
ソース(v1) バイナリーHEXコード(v1)
ソースはCCS-Cコンパイラで書いています。
(どんどんつづく)